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銀木犀の香る寝屋であなたと
第4章 少女時代の終焉
 一樹も交えて久しぶりに温かく楽しい食卓を囲んだ。珠子の乳母であるばあやもまだ健在で、相変わらず口やかましく心配性であったが何となく性格が丸くなったような気がする。

 藤井家でのことは特に話すことはなく、かといって心配をさせたくもないので皆に良くしてもらっていると珠子は話した。自分の話をするよりも珠子は一樹の話を聞きたかった。一樹を質問攻めにしていると浩一が「子供の頃と珠子は変わっていないね」と優しく微笑んだ。

「だって。お父さま。一樹兄さまは他所にいらっしゃるし、先生のお立ち場って興味がありますもの」
「うーん。教えるってことは大変だね。自分が習うよりも大変だよ。自分がわかっていても相手は全く分からないことを分からせようとするのだからね。今なら先生方のご苦労がよくわかるよ」

 一樹はすっかりと堂々とした青年ぶりで、真面目に教職について語った。珠子は自分の兄がこんな立派な人物になったのかと思うと誇らしくてならない。それでいておごることなく優しく正直な様子は昔と変わっていない。

 珠子は嫁入り前の少女に戻ったかのようにくつろぎ楽しんだ。そして夜が更け寝所に寝に行く。今でも珠子の部屋はそのままにしてあるようで物こそ何もないが綺麗に掃除をされていた。

 畳に敷かれた布団に横たわりしみじみと実家を感じる。(ベッドもいいけど、お布団を敷く方がいいわね)

 今夜は満月のようで障子の向こうがとても明るい。疲れてはいるがなんとなく眠れず布団を剥いだ。(ああ、小屋を見に行こう)
思い立ってそっと部屋を出、廊下を歩き屋敷の外につながる扉に向かう。(あれ?閂が外れてる)

 誰も出居るすることがないのだろうか。閂は外れていて出入りが自由のようだ。
坂道をゆるゆると月光浴をしながら登る。懐かしい小屋が見えてきた。
 当時に比べ少し朽ちているようで、月明かりが向こう側の壁から透けて見えるようだ。もうすぐ目の前に差し掛かった時、何やらうめき声が聞こえた。(えっ?)
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