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銀木犀の香る寝屋であなたと
第7章 別離
 額に口づけし抱き寄せる。
 珠子は一樹のことを思いながら、ロバートに抱かれることに後ろめたい気持ちになった。しかし、ロバートの愛の囁きは情事とのセットで本心ではないかもしれないと思うと少し、罪悪感は薄れる。

 ここにいる女たちが「アイ ラブ ユー」とささやかれ、本気になったが本国に妻子が居たり、あっけなく捨てられたりしているのを何度か目の当たりにすると信用しきることが難しい。
 カヨという珠子より三つ、四つほど年上の三十路の女がもう三度も男に捨てられていた。それでもカヨは男の言葉を信じ続け、今四度目の恋に落ちている。

 髪やら頬やら肩やらを優しく撫でられている間中、珠子は考え事をしていて、柱時計の夜九時を知らせる音にハッとして身体を起こした。

「そろそろ、帰らないと……」
「もう?せっかく結ばれたのに」

 ロマンチックなロバートに珠子は苦笑した。

「ごめんなさい。家族が……待ってるの」
「オーケイ。車で送るよ」

「ありがとう」

 ロバートは珠子の事情を多少は知っている。ただ元男爵家夫人ということと本名は知らない。名残惜しそうに、彼はもう一度服を着てしまう前の珠子の肩にキスマークを付けた。
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