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銀木犀の香る寝屋であなたと
第7章 別離
 なかなか答えが見つからなかった。こちらの都合の良い話を道弘が聞いてくれるかどうかわからない。

 吉弘が珠子をじっと見つめて「ねえ、かあさまはお好きな方がいらっしゃるのでしょう?」と突然言い始める。

「えっ?どうして……そんなこと……」

 珠子とキヨはぎょっとして吉弘を見つめた。

「夜中にお話しなさってるのを聞いたの。僕はお母さまはその方のところへ行くのだと思っていた」
「いえ……。もうそのお話はなしよ。吉弘さんと道弘様のところへ向かわなくては……」

「母さんはいけないのでしょう?」
「何とか、なんとかお願いいしてみるわ。ダメなら……お断りするか……」

「ふーん」

 キヨは困り顔で下を向いている。
吉弘は少し眠たげな瞼をこすってまた言葉を発する。

「かあさまと母さんが交代すればいいのだと思う」
「えっ?」
「ええっ!」

 珠子とキヨは仰天して顔を見合わせた。

「あ、あの一体どういうことかしら」
「あのね。母さんと僕が道弘様のところへ行って、珠子かあさまがお好きな人のところへ行くのがいいのでしょう?」
「は、はあ……」

 こどもの発想というのはどうしてこのように柔軟で素直なのであろうか。

「僕、珠子かあさまと離れるのはとてもつらいけど、今の派手でお酒の匂いをさせながら働くかあさまを見るのはもう嫌だ。
ご結婚なされば以前のかあさまに戻れるのでしょう?」
「よ、吉弘さん……」

 すれ違う生活の中で、吉弘は吉弘なりに胸を痛めていたのだ。

「僕は母さんと道弘様のことろへ行きます」
「吉弘……」

 十歳になった吉弘は立派な貴族然とした様子で、凛とし、はっきり言った。
これ以上いい提案は思いつかなかった。
 こうして珠子とキヨは入れ替わることにした。
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