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銀木犀の香る寝屋であなたと
第7章 別離
「今日は桂花さん早いですね」

『カフェー アメリカ』のオーナー、近藤茂夫は暇そうにグラスを拭いている。

「家に居てもすることがなくてね」

 珠子は茂夫から布巾を受け取り、テーブルを拭きはじめた。
まだ客は少なく、本格的に飲んでいるものもいない。

 女給もカヨくらいで、彼女はいつも早くからやってきて窓辺で恋人が来るのを待ちわびているのだ。カヨの後姿を見ながら珠子は、キヨが以前文弘を待っている様子に似ているなと思った。
 彼女たちのように待ちわびる気になれないのは、やはりロバートを愛してはいない証拠だろうか。
ロバートよりもキヨと吉弘を想う気持ちが強くなるのを感じて、打ち消すようにゴシゴシとテーブルを強く拭く。
そして今夜こそ、ロバートがいつも望む、一緒に一晩を過ごそうと考えた。
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