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銀木犀の香る寝屋であなたと
第7章 別離
 サムの薄いそばかすと、コークの炭酸の泡をぼんやり眺める。

 味の分からないコークを飲んでいると何やら賑やかな声が聞こえ始めた。そして珠子の目の前にロックグラスが置かれ、ウィスキーが注がれた。
顔をあげると、こってりした化粧の嬉しそうなキヨが目の前にいた。

「桂花。おごりよ、飲んで!」
「どうしたのカヨさん。嬉しそうね」

「あのねっ。結婚するの!マイケルと!一緒にアメリカに行くのよ!」
「そうなのね。おめでとう!」
「ありがとう!」

 カヨはウィスキーの瓶を意気揚々と持ち運び、店の客や女給やらに注いで回った。
琥珀色の液体を眺め、ロバートの薄茶色の瞳を思う。

 カヨの喜びを身体中に溢れさせている姿を見て、珠子は羨ましかった。結婚することへの羨望ではない、心から愛する人と結ばれることへの喜びを持つ彼女が羨ましいのだった。

 外国に行くと言葉も生活習慣も何もかも違うのだろう。カヨには不安がないのであろうか。
 スポットライトが当たったかのようなカヨを眺めていると、外でジープの停まる音が聞こえ珠子はふっと目をやった。ロバートだった。

 複雑な思いで店の外に出、様子をうかがいながらロバートのほうへ向かう。彼は元気がなく、暗い顔つきをしている。

「ロバート」

 珠子の声にロバートは顔をあげ、嬉しさと気まずさを同時に見せた。

「ケイカ、早いんだネ」
「ええ。あなたは遅かったのね」

 ロバートは答えず、珠子の細い肩を抱きしめる。

「痛いわ」
「ゴメン……」

 途方に暮れているようなロバートの表情をみつめながら、珠子はそっと彼の大きな白い手を取り、手の甲を優しく撫でる。

「ロバート。全部教えて。何があったのか、どう思ってるのか」
「ケイカ……」

 店の中はいつも以上に騒がしかったので二人は少し歩き、川辺に着き腰を下ろした。

「ん?ナンダロウ。甘い香りがする」
「ああ、金木犀が咲いているんだわ」

「いい香りだ」

 強い甘い香りが漂う。少し香りを楽しんだ後、深いため息をつきロバートは話し始めた。
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