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色絵
第2章 入門
夫を送り出し、ひととおりの家事を終える。
よそいきの服を着る。
引っ越してから初めての外出かもしれない。
それだけで、ウキウキする。
お化粧を普段より丁寧にして、淡い香りの香水をつけ、小さなポーチに荷物を入れる。
身支度するだけで気分が良くなる。
こんな些細なことだったんだと、鏡に向かって笑みが溢れる。
10時を回ったところ…
訪問に差し支えない時間。
玄関の姿見で、今一度服装をチェックして家を出る。
行き先はすぐそこ。
弾む足取りで、黒塀の前に立ち、まだ色づいていないさくらんぼの実を見つめる。
少し躊躇するも、インターホンのボタンを押す。
ピンポーン…
応答がない。
もう一度押してみようか…
戸惑っている時に、
「はい。」
男性の声で応答があった。
「あの…桜の絵を見て、絵を教えていただきたくて、参りました。」
用件を手短に言う。
暫しの間が、凄く長く感じられた。
「どうぞ、門を入ったところでお待ちください。」
穏やかな男性の声。
一瞬の緊張がほぐれた。