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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第3章 秘密の花園

…時同じくして、軽井沢の北白川伯爵家の朝食室では、風邪気味の下僕に代わり、執事の月城が朝食の給仕に出ていた。
クリスタルのグラスにオレンジジュースを注ぐ月城の手元を見て、綾香は美しい眉を上げた。
そして、月城の薬指の指輪をしなやかに撫で上げるようにして、温かく笑った。
「…貴方もやっと年貢を納めたのね…?」
月城はその氷のような怜悧な美貌にうっすらと…しかし実に幸せそうな微笑みを浮かべ、優雅に一礼すると静かに退室した。
遅れて朝食室に入ってきた梨央が、綾香の頬にキスをしながら不思議そうに尋ねる。
「なあに?お姉様、月城がどうかしたの?」
綾香は華やかな美貌を楽しそうに綻ばせ、愛おしい妹を見つめる。
「…とても良いお話よ。あとでゆっくり話して差し上げるわ…」
…朝食室での月城の薬指の指輪を発見したメイドは、すぐさま階下の食堂に集まる他のメイド達に、今見た光景をつぶさに報告した。
メイド達は全員、嘆きと悲しみに暮れ…とりわけ、月城に一番熱を上げていたキッチンメイドは、この世の終わりのような表情で、ベソをかきながら昼食のキッシュの準備に取り掛かった。
その日の昼食のキッシュを、二人の女主人は殆ど手をつけることなく残され、料理長の春をそれはそれは嘆かせた。
…しかしその原因は皆が承知していたことだったので、誰ひとりとして咎められることはなかったのである。
クリスタルのグラスにオレンジジュースを注ぐ月城の手元を見て、綾香は美しい眉を上げた。
そして、月城の薬指の指輪をしなやかに撫で上げるようにして、温かく笑った。
「…貴方もやっと年貢を納めたのね…?」
月城はその氷のような怜悧な美貌にうっすらと…しかし実に幸せそうな微笑みを浮かべ、優雅に一礼すると静かに退室した。
遅れて朝食室に入ってきた梨央が、綾香の頬にキスをしながら不思議そうに尋ねる。
「なあに?お姉様、月城がどうかしたの?」
綾香は華やかな美貌を楽しそうに綻ばせ、愛おしい妹を見つめる。
「…とても良いお話よ。あとでゆっくり話して差し上げるわ…」
…朝食室での月城の薬指の指輪を発見したメイドは、すぐさま階下の食堂に集まる他のメイド達に、今見た光景をつぶさに報告した。
メイド達は全員、嘆きと悲しみに暮れ…とりわけ、月城に一番熱を上げていたキッチンメイドは、この世の終わりのような表情で、ベソをかきながら昼食のキッシュの準備に取り掛かった。
その日の昼食のキッシュを、二人の女主人は殆ど手をつけることなく残され、料理長の春をそれはそれは嘆かせた。
…しかしその原因は皆が承知していたことだったので、誰ひとりとして咎められることはなかったのである。

