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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第1章 夏の華
…かつて月城は、狭霧に誘われて一度だけ彼を抱いたことがある。

真夏の夜のことだ。
あまりに蒸し暑い夜だった。
月城がなかなか寝付けずにいると、ドアが音もなく開きしどけない白い夜着姿の狭霧が、夢のように入ってきた。
「狭霧さん…?」
驚いて起き上がる月城を制するように、狭霧は月城の身体の上に覆い被さる。
「…月城くん。…君、男を抱いたことはある?」
テニスをしたことがあるか?…と聞くような気楽な口調であった。
狭霧はいつものように朗らかに笑っている。
「…酔っていますね?狭霧さん…」
月城は彼を押しとどめようとした。
狭霧は酒に滅法強い。
酒に呑まれることも乱れることも見苦しい醜態を晒すことも一度としてなかった。
「…酔ってなんかいないけれど…」
狭霧はその白く細い指先で、月城の唇を淫靡になぞる。
「…酔ったことにしておこう。…その方が、お互い後が楽だ」
「何を仰っているのですか…?」
仄暗い闇の中、狭霧の白く美しい貌だけが嘘のように薄明るく映えている。
彼は謎めいた微笑みを浮かべ
「…君に男と寝る手解きをしてあげるよ。…乗馬、狩猟、ワルツ、チェス、ワインのテイスティング…一流の執事としての嗜みを君はあっと言う間に修得した。
…後は、閨の作法だけだ…」
「…狭霧さ…んっ…!」
抗おうとする月城の腕を、この細身の身体にどこにそんな力が隠されていたのかと驚くほどの力で逆に抑えつけられる。
馬乗りになられたまま、月城は唇を奪われた。
「…んっ…!…さぎ…り…」
「…唇は閉じてはいけないよ…力を抜いて…そう…柔らかく…押し包むように…」
手を取りワルツを教えてくれたように、狭霧の優しい声が響く。
その甘い声と、どこか麻薬めいた伽羅の薫りが月城の脳髄にじわじわと侵食する。

…気がつけば、月城が狭霧を押し倒し、噛み付くように唇を貪っていた。
「…んっ…は…あ…っ…いい…君…キスも…上手いね…舌遣いがたまらな…い…」
掠れた声で喘ぎ出す狭霧に挑むように、更に荒々しく舌を絡め、千切れるほど吸う。
「…狭霧さんは…いつも私を子ども扱いなさる…。
…私はもう大人です…」
憤ったように狭霧の唇を蹂躙し、その夜目にも美しく妖しい貌を両手で掴む。
狭霧は優しく…妖艶に微笑った。
「…そうだった。…では、お手並み拝見といこう…」
狭霧の手が魔法のように月城の夜着を解いていった…。
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