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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第1章 夏の華
夜会は夜の12時前に和やかにお開きとなった。
月城は招待客の見送りもする予定だったが、階下で下僕が一人、脚をくじいた為に人手が足りず、狭霧や家政婦の彌生にその役を任せ、裏方に徹した。

高価なグラスやワインの確認を終え、執務室で招待客の車の手配が足りていたかのチェックをしていると、狭霧がノックもなしに入ってきた。

「…狭霧さん、お客様はもうお帰りですか?」
「大方ね。…私がいると、どうも来賓の夫君が良い顔をなさらないので、引き上げてきたよ」
月城は眼を見張る。
「…まさか、今宵の招待客の中に狭霧さんが火遊びされたご夫人が…?」
「…うーん。いたような気もするし…いなかったような気もするし…」
実に適当な返事に二の句が告げない。
月城は溜息を吐く。
「…無理をしても私が行くべきでした」
「あれ?もしかして呆れてる?」
「…いいえ。狭霧さんの破天荒には慣れていますから…」
業務日誌にメモを残していると、狭霧が後ろから月城に抱きつく。
「フフフ…君は相変わらず可愛いね。…大好きだよ、月城くん。…日本に帰ると、君に会えるのが何よりの楽しみだ」
「…ちょっ…狭霧さん…」
「いいじゃないか。…少しくらい…」
尚もじゃれつく狭霧をいなしていると、ドアの外で小さな物音がした。
振り向いた月城は驚きの余り、小さく叫んだ。
「…暁様…!」

半開きになったドアの向こうに、暁が硬い表情で佇んでいた。
「…おや。…縣の坊っちゃま」
狭霧が無邪気に微笑む。
月城は素早く椅子から立ち上がり、廊下に出る。
後ろ手でドアを閉めながら、暁の前に立つ。
「どうされたのですか?…こんな階下まで…」
声を潜めて尋ねたのが、詰問のように強い言い方になってしまった。
暁は一瞬、びくりとしておずおずと口を開く。
「…勝手に来て、すまない…。…でも、見送りの中に君がいなかったから…。…あの…どうしても君と話したかったんだ」
縋り付くような眼差しに胸が痛む。
本当は月城だって、このまま暁を胸に抱きしめたい。
…だが、ここでそんなことをする訳にはいかない。
現に今、廊下を行き交う下僕やメイドは、美しき男爵家の子息が階下にいることに、驚きながら興味津々の眼差しを向けている。
貴族の子弟が、階下を訪れること自体あり得ないことなのだ。
…暁様のお名前を傷つけてはならない。
月城は暁の名誉を何よりも重んじていた。

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