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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第1章 夏の華
ワインセラー室から出てきた月城と暁を見て、礼也は眉を顰める。
廊下には、突然現れた容姿端麗で高貴な男爵に、恐れ多く…だが興味深々と遠巻きに見ている下僕やメイドがいた。
月城は礼也に頭を下げる。
「…月城…」
月城の背後に隠れるように身を潜めている暁を見つけ、礼也は月城を睨む。
そして、月城の後ろの暁に優しく話しかける。
「暁…。こんなところにいたのか。探したよ。…さあ、帰るぞ」
「…兄さん…」
礼也は月城に一歩近づき、やや小声で…しかし強い口調で問いただす。
「月城、暁を階下に呼び出すのは止めてくれないか。…暁にも立場がある」
暁は目を見張り、慌てて首を振る。
「違うんです!兄さん、僕が勝手に来たのです。…月城は悪く…」
「申し訳ありません。私が、暁様をお呼び立ていたしました。…ワインについてお伺いしたいことがありましたので…」
反論する暁を遮り、礼也に頭を下げる。
「…月城!なぜそんな…!」
声を上げる暁に
「大変ご迷惑をおかけいたしました。…暁様。
…どうぞ、縣様とご一緒にお帰りください」
頭を下げ、一言の反論も許さない態度を崩さなかった。
「…月城…」
なす術もなく立ち尽くす暁の肩を礼也は優しく抱く。
「さあ、帰ろう。光さんが車でお待ちだ。…今日はもう遅い。このまま松濤の家に泊まりなさい。
明日は一緒に出勤しよう」
「…兄さん…でも…」
礼也はやや強引に暁の手を引き、階段へと導く。
「…おいで、暁」
諦めた暁は礼也に付き従う。
廊下のメイド達は膝を折り、通り過ぎる二人にお辞儀をする。
階段を登りながら、暁は月城を振り返る。
…月城の眼鏡の奥の怜悧な眼差しからは、何ひとつ感情が読み取れなかった。
暁は溜め息を吐くと、兄に肩を抱かれながら階上へと消えていった。
思わぬ高貴な人々の来訪に、使用人達は暫し騒めいていたが、家政婦の彌生により、それぞれの持ち場に散っていった。
「…これは強力な小姑だな。縣様がここまで暁様を溺愛しておられるとは知らなかったよ」
いつの間にか近くに忍び寄っていた狭霧が、月城の耳元で囁く。
月城は表情を変えずに
「…仕方ありません。…暁様は縣様の掌中の珠のような存在でいらっしゃるのですから…」
そう言うと、静かに執務室に戻っていったのだった。
…暁様は、何を仰りたかったのだろうか…。
月城はそれだけが気がかりであったのだ。
廊下には、突然現れた容姿端麗で高貴な男爵に、恐れ多く…だが興味深々と遠巻きに見ている下僕やメイドがいた。
月城は礼也に頭を下げる。
「…月城…」
月城の背後に隠れるように身を潜めている暁を見つけ、礼也は月城を睨む。
そして、月城の後ろの暁に優しく話しかける。
「暁…。こんなところにいたのか。探したよ。…さあ、帰るぞ」
「…兄さん…」
礼也は月城に一歩近づき、やや小声で…しかし強い口調で問いただす。
「月城、暁を階下に呼び出すのは止めてくれないか。…暁にも立場がある」
暁は目を見張り、慌てて首を振る。
「違うんです!兄さん、僕が勝手に来たのです。…月城は悪く…」
「申し訳ありません。私が、暁様をお呼び立ていたしました。…ワインについてお伺いしたいことがありましたので…」
反論する暁を遮り、礼也に頭を下げる。
「…月城!なぜそんな…!」
声を上げる暁に
「大変ご迷惑をおかけいたしました。…暁様。
…どうぞ、縣様とご一緒にお帰りください」
頭を下げ、一言の反論も許さない態度を崩さなかった。
「…月城…」
なす術もなく立ち尽くす暁の肩を礼也は優しく抱く。
「さあ、帰ろう。光さんが車でお待ちだ。…今日はもう遅い。このまま松濤の家に泊まりなさい。
明日は一緒に出勤しよう」
「…兄さん…でも…」
礼也はやや強引に暁の手を引き、階段へと導く。
「…おいで、暁」
諦めた暁は礼也に付き従う。
廊下のメイド達は膝を折り、通り過ぎる二人にお辞儀をする。
階段を登りながら、暁は月城を振り返る。
…月城の眼鏡の奥の怜悧な眼差しからは、何ひとつ感情が読み取れなかった。
暁は溜め息を吐くと、兄に肩を抱かれながら階上へと消えていった。
思わぬ高貴な人々の来訪に、使用人達は暫し騒めいていたが、家政婦の彌生により、それぞれの持ち場に散っていった。
「…これは強力な小姑だな。縣様がここまで暁様を溺愛しておられるとは知らなかったよ」
いつの間にか近くに忍び寄っていた狭霧が、月城の耳元で囁く。
月城は表情を変えずに
「…仕方ありません。…暁様は縣様の掌中の珠のような存在でいらっしゃるのですから…」
そう言うと、静かに執務室に戻っていったのだった。
…暁様は、何を仰りたかったのだろうか…。
月城はそれだけが気がかりであったのだ。