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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第4章 ハニームーン・ペーパームーン 〜蜜・月・旅・行〜
暁は静かに貌を見上げる。
「…僕は今の仕事が大好きだし、責任ある仕事を任されていてありがたいと思う。部下も皆、僕を信頼してくれて、付いてきてくれる。
兄さんや光さんや薫も菫も大好きだ。松濤の家に行けば、皆僕を心から歓迎してくれる。…兄さんに至っては、まだ僕を子どもみたいに可愛がってくれるし…。
こんなに恵まれているのに、帰りたくないなんて…ばちが当たると思うけれど…」
「…いいえ、暁様…」
子どものようにしがみつく暁の背中を優しく撫でる。
月城の胸に貌を埋めたまま、おずおずと口を開く。
「…今だけ…我儘を言ってもいい?」
「どうぞ、暁様…」
「…家に帰ったら、なかなか君に会えない。…君は執事の仕事だけでなく、伯爵のお仕事の代行も任せられるようになって…益々多忙だし、休みもなかなか合わない。…君が一生懸命僕と会う時間を捻出してくれているのも分かる。…ありがたいと思う。でもそのせいで君が疲れてしまうのは絶対に嫌だ。君の足枷にはなりたくない。
…でも…でも…僕は、毎日君に会いたい…毎日一緒にいたい…君と少しでも離れたくない…!」
暁の声がくぐもる。
月城は堪らずに暁の華奢な身体を抱きしめた。
「暁様…!」
…こんなにも私は暁様を我慢させてしまっていたのか…!
慚愧の念に堪えない。

…ここ数年で月城の仕事も大きく様変わりした。
海外生活が主になってしまった北白川伯爵の代わりに日本での私的な仕事や領地の管理、不動産や株の売買などあらゆる業務は月城が代行していると言っても過言ではなかった。
それに伴い、屋敷の仕事は副執事に任せ、泊まりを要する地方出張や外出も頻繁になった。

暁もレストラン事業に加え、ホテル事業も任されるようになり、やはり多忙を極めていた。
社交界でのお茶会や夜会などの予定も何ヶ月先までびっしりと入っている。

縣男爵の美貌の弟は社交界の華だ。
夜会の出席は仕事につながる大切な責務でもあるし、何より縣家の為…礼也の為に少しでも力になりたい暁は誠実にこなしていた。
その為に二人は隣同士で住んでいても、会える日は本当に限られていた。

しかし、暁は普段はそのことに不満を持つどころか寂しさを口にすることもなかった。
会える時に本当に幸せそうな笑顔を見せてくれるだけであった。

…自分はその暁の優しさに甘えていたのではないだろうかと月城は胸が締め付けられる思いだった。
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