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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
屋敷の書斎の出窓に佇む紳一郎はぼんやりと窓の外に広がる夕景を眺めていた。
三階のこの部屋からは、屋敷の周りを取り囲むように植えられている樅木が良く見える。
…あの男の小屋の周りにも樅木が植えられていた…。
いや、樅木に覆い隠されていたような小さな小屋だった。
まるで西洋の童話に出て来るような、粗末で無骨な山小屋…。
けれど、子どもの紳一郎にはお伽話の魔法の家のように思えた…。
密やかなノックの音が聞こえる。
振り向くと、この家の執事が慇懃にお辞儀をしながら入ってきた。
注意深く扉を閉め、紳一郎の前まで進む。
執事は感情が一切読み取れない能面のような貌を上げ、滑らかに口を開いた。
「…紳一郎様。ただいま探偵の報告がまいりました。かの者の消息が判明した模様にございます」
紳一郎はアーモンド型の瞳を僅かに見開く。
白手袋を着けた執事が差し出す白い紙を受け取る。
折りたたまれた紙を開いて、一瞬だけ眉を上げる。
…が、直ぐに端正な表情に戻り、その紙を星南学院の制服の胸ポケットに差し入れた。
そして、再び窓の外に向き直ると感情を押し殺した声で命ずる。
「…分かっているとは思うが、この件は他言無用だ」
「承知いたしました。紳一郎様」
執事は淡々と答えると、そのまま音もなく書斎を後にした。
…執事が退出したのを確認すると、紳一郎は胸ポケットに収めた紙を再び取り出す。
「…十市…!」
…何年ぶりかにその男の名前を呟く。
三階のこの部屋からは、屋敷の周りを取り囲むように植えられている樅木が良く見える。
…あの男の小屋の周りにも樅木が植えられていた…。
いや、樅木に覆い隠されていたような小さな小屋だった。
まるで西洋の童話に出て来るような、粗末で無骨な山小屋…。
けれど、子どもの紳一郎にはお伽話の魔法の家のように思えた…。
密やかなノックの音が聞こえる。
振り向くと、この家の執事が慇懃にお辞儀をしながら入ってきた。
注意深く扉を閉め、紳一郎の前まで進む。
執事は感情が一切読み取れない能面のような貌を上げ、滑らかに口を開いた。
「…紳一郎様。ただいま探偵の報告がまいりました。かの者の消息が判明した模様にございます」
紳一郎はアーモンド型の瞳を僅かに見開く。
白手袋を着けた執事が差し出す白い紙を受け取る。
折りたたまれた紙を開いて、一瞬だけ眉を上げる。
…が、直ぐに端正な表情に戻り、その紙を星南学院の制服の胸ポケットに差し入れた。
そして、再び窓の外に向き直ると感情を押し殺した声で命ずる。
「…分かっているとは思うが、この件は他言無用だ」
「承知いたしました。紳一郎様」
執事は淡々と答えると、そのまま音もなく書斎を後にした。
…執事が退出したのを確認すると、紳一郎は胸ポケットに収めた紙を再び取り出す。
「…十市…!」
…何年ぶりかにその男の名前を呟く。