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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
…その男は紳一郎の物心ついた頃には既に軽井沢の別荘の森番として存在していた。
父親の森番もいたらしいが、紳一郎には記憶がない。
幼い紳一郎の記憶の中でも彼は最初から大人であった。
年齢差は15なのだから、当時彼はまだ18や19の若者であったはずなのだが、紳一郎の記憶では彼の革のジャケットからは安い煙草の匂いがいつも漂っていたし、背丈は屋敷の中で働く使用人の誰よりも高く、そして着衣越しの体躯は逞しく引き締まり、その動きは黒豹のようにしなやかであった。
貌立ちは異国の血が混じっているのではないかと思うほどに彫りが深く、眉の下は窪み、その瞳は室内では黒色なのだが陽の光に当たるとアメジスト色に輝いて、紳一郎をうっとりとさせた。
高い鼻梁は西洋人のそれのようであったし、唇はやや肉厚で、大抵はその唇の端に煙草を咥えていた。
肌は褐色に近い小麦色で、それが彼に日本人離れした印象を強く与えていたのだ。
艶やかな長い黒髪は天然のゆるやかな巻毛で、彼はいつもその髪を細い革紐で無造作にひとつに結んでいた。

彼は屋敷中の使用人の中で誰よりも寡黙であった。
彼が話をしているところをついぞ見た事がなかったので、最初は彼は口が利けないのかと思ったほどだ。

…だが、ひとたび懐けば彼は屋敷中の使用人の誰よりも優しく誰よりも温かかった。

「じゅういち!肩車して!」
紳一郎が彼の仕事場に行くと、彼は目を細めて笑い、紳一郎を肩車してくれた。
驚くほどに視界が高くなり紳一郎はいつも歓声をあげた。
一人っ子で近所に歳の近い子どももいない紳一郎は広く豪奢な屋敷にひとりぼっちだった。
多情な母は屋敷に寄り付かない。
貴族院議員議長の父は多忙でたまにしか帰宅しない。
乳母やナニー、家庭教師はいたが、彼らは名家の御曹司の紳一郎に腫れ物に触るような接し方しかしてくれなかった。
…幼稚舎に通うまで、紳一郎の友達は彼…十市しかいなかったのだ。

十市は春から秋にかけては軽井沢の森番の仕事をし、冬になると広尾の屋敷にやってきた。
仕事は庭師の手伝いや屋敷内の大工仕事、父や母が所有している十数頭にわたる馬の世話だ。

十市の住まいはここでも領地の外れ…林の中にぽつんと佇む小さな小屋だった。
他の使用人たちは階下の使用人居住スペースに住まうのに、十市だけは断固として階下に寝泊まりしようとはしなかったのだ。





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