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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
温室に入ると、まるで常夏のような温かな空気とエキゾチックな果実の湿り気を含んだ香気が司の身体を包み込んだ。
ここは南洋植物や小さな樹木専門の温室だ。
南国の花と果実の匂い…そして隣には南国の色鮮やかな羽根を持ち、唄うように鳴く鳥たちが飼われている広い鳥舎まである…まるでここは地上の楽園のようだった。
司が育ったパリは都会で、屋敷も広々とはしていたが近代的な建物と庭だったので、温室の設えはなかった。
またパリの人々は英国人ほど庭や温室にここまでの拘りはない。
英国人は温室でお茶会を開いたり、音楽を聴いたりと殊の外、重きを置いてその植物や花々の生育や見栄え、センスを競い愛でるのだ。
縣家の当主も庭園と温室には並々ならぬ美意識と拘りを持っているようで、温室に造詣が深くはない司が見惚れてしまうほどの素晴らしい花々と植物が醸し出す豊かな美観の温室であった。
そのまるで童話の世界のような南国の花には囲まれたプロムナードを、先を歩く薫が振り返る。
美しいが硬い表情の中に浮かぶ真摯な色を司は感じ取った。
司が口を開こうとした瞬間、薫は身体を二つ折りにせんばかりに頭を下げた。
「ごめんなさい!司さん。僕、嘘を吐きました」
「薫くん…」
「…僕…泉が好きで、司さんに取られたくなくて…だから泉とセックスしたなんて嘘を吐きました。
…本当はそんなことしてません。…泉は…僕を自分の子どもみたいに思っているって…。僕のことは好きだけど、恋じゃないって…。はっきり言われました」
泣き笑いのように唇を歪める。
司の胸がちくりと痛んだ。
小さな少年にこんな顔をさせてしまった自分に自己嫌悪する。
「…薫くん…もういいよ」
薫は綺麗な瞳に涙を貯めながら首を振る。
「よくない!僕は司さんだけでなく泉も傷つけた。謝って済むことじゃないけれど、本当にごめんなさい!」
一途に謝る姿から薫本来の素直さが伝わってくる。
「頭を上げて、薫くん。…僕こそ…君の大切な泉を奪ってしまって…ごめんね。
…泉は薫くんの初恋だったんだよね」
司の言葉に、薫は唇を歪めながら必死で笑う。
「…初恋です。今も大好きだけど…泉は司さんに恋してる…て。…だから仕方ないです。諦めます。…だから…」
無垢な真珠のような涙が少年の滑らかな白い頬を伝う。
ここは南洋植物や小さな樹木専門の温室だ。
南国の花と果実の匂い…そして隣には南国の色鮮やかな羽根を持ち、唄うように鳴く鳥たちが飼われている広い鳥舎まである…まるでここは地上の楽園のようだった。
司が育ったパリは都会で、屋敷も広々とはしていたが近代的な建物と庭だったので、温室の設えはなかった。
またパリの人々は英国人ほど庭や温室にここまでの拘りはない。
英国人は温室でお茶会を開いたり、音楽を聴いたりと殊の外、重きを置いてその植物や花々の生育や見栄え、センスを競い愛でるのだ。
縣家の当主も庭園と温室には並々ならぬ美意識と拘りを持っているようで、温室に造詣が深くはない司が見惚れてしまうほどの素晴らしい花々と植物が醸し出す豊かな美観の温室であった。
そのまるで童話の世界のような南国の花には囲まれたプロムナードを、先を歩く薫が振り返る。
美しいが硬い表情の中に浮かぶ真摯な色を司は感じ取った。
司が口を開こうとした瞬間、薫は身体を二つ折りにせんばかりに頭を下げた。
「ごめんなさい!司さん。僕、嘘を吐きました」
「薫くん…」
「…僕…泉が好きで、司さんに取られたくなくて…だから泉とセックスしたなんて嘘を吐きました。
…本当はそんなことしてません。…泉は…僕を自分の子どもみたいに思っているって…。僕のことは好きだけど、恋じゃないって…。はっきり言われました」
泣き笑いのように唇を歪める。
司の胸がちくりと痛んだ。
小さな少年にこんな顔をさせてしまった自分に自己嫌悪する。
「…薫くん…もういいよ」
薫は綺麗な瞳に涙を貯めながら首を振る。
「よくない!僕は司さんだけでなく泉も傷つけた。謝って済むことじゃないけれど、本当にごめんなさい!」
一途に謝る姿から薫本来の素直さが伝わってくる。
「頭を上げて、薫くん。…僕こそ…君の大切な泉を奪ってしまって…ごめんね。
…泉は薫くんの初恋だったんだよね」
司の言葉に、薫は唇を歪めながら必死で笑う。
「…初恋です。今も大好きだけど…泉は司さんに恋してる…て。…だから仕方ないです。諦めます。…だから…」
無垢な真珠のような涙が少年の滑らかな白い頬を伝う。