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第9章 さよなら、初恋

縣家の下僕が恭しく車のドアを開ける。
司はしなやかに地面に降り立ち、広い玄関を見遣る。

…幾人かの下僕を従えた禁欲的な執事の制服を身に纏った泉が精悍な姿で佇んでいた。
そしてその隣には…
やや小柄ながらも均整のとれたプロポーションをした薫が、きちんと濃灰色のジャケットを着込んだ姿で緊張気味に立っていた。

司はゆっくりと二人の前に進んだ。
泉が恭しく優雅に一礼する。
「お帰りなさいませ。司様。お待ち申し上げておりました」
司と眼が合うと静かに微笑む。
「…ただいま。泉…」
少し照れくさくて、司は小さな声で答えた。

もう少し泉を見ていたかったが隣の薫が気になり、視線を移す。
薫は緊張した様子で、その人形のように繊細に整った貌を強張らせていた。

司は優しく微笑んだ。
「ただいま、薫くん」
薫は司を見上げると、硬さの残る声で答えた。
「…お帰りなさい。司さん」
そして、その黒目勝ちな大きな瞳に強い意志を漲らせて告げた。
「…温室に来ていただけますか。お話があります」