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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
「…そうか。…そうだったのか…」
暁人は薫の話を聞いてしみじみと呟いた。
大紋家には屋根裏部屋がある。
暁人の為に春馬が作らせた部屋だが今では薫の方がお気に入りで、暁人の家に行くといつも入り浸っている。
今夜は明かり取りの窓が開かれ、墨を流したような夜天にダイヤモンドの如く煌めく星々を、薫はじっと見つめていた。
「…うん…」
二人は毛布に包まり、薫が持ってきた天体望遠鏡を覗いていた。
薫はメイドが運んできたココアを一口飲む。
「…泉は僕に恋してないって…はっきり言われちゃったからさ。仕方ない」
強がるように明るく笑う薫の可愛らしい鼻先は朱く染まっている。
「…そうか…」
「…司さんに恋してるって。…そんな気はしてたけどね」
「…うん…」
暁人は優しく相槌を打つ。
「だからもういいや。諦める。…泉は司さんに熨斗つけてあげる」
薫の声がか細く震える。
俯いた瞬間、暁人が毛布ごと薫を抱き締める。
「…薫…ちゃんと謝って偉かったな。…司さんに泉を託して、偉かったな…」
小さな子どもをあやすように軽く背中を叩く。
泣くかなと思ったが、薫は泣いてはいなかった。
ほっとしながら優しく囁く。
「…寂しいだろうけれど…」
「…お前が…」
「うん?」
ぶっきらぼうな声が暁人の胸元から響く。
「…お前が泉の代わりに側にいてくれたら、寂しくないかも…」
「…え…?…それって…」
驚いた暁人が薫の貌を覗き込む。
つんと顎を反らし、高慢ちきな口調で告げる。
「…お前を…幼馴染みから恋人に昇格してやる。…何年もしつこく口説かれてさ。僕もいちいち拒むのが面倒になってきたのさ。…だから…いい加減年貢を納めてやる」
けれど最後は少し照れたように笑ったのだ。
「薫!」
感激のあまり涙ぐみだした暁人に、薫は神妙に告げた。
「…暁人。…今までありがとう。…これから…よろしく」
そして、初めて薫から暁人に触れ合うだけの可愛らしいキスをした。
「…薫…」
感極まり、それ以上言葉にならない暁人に抱きつく。
はにかんだ声が囁く。
「…待ってて。少しずつ、お前に恋するから…」
薫の声は暁人の胸の中に消えていった。
満天の冬の星座は、まだ幼い恋人達の頭上で音もなく煌めき続けるのだった。
暁人は薫の話を聞いてしみじみと呟いた。
大紋家には屋根裏部屋がある。
暁人の為に春馬が作らせた部屋だが今では薫の方がお気に入りで、暁人の家に行くといつも入り浸っている。
今夜は明かり取りの窓が開かれ、墨を流したような夜天にダイヤモンドの如く煌めく星々を、薫はじっと見つめていた。
「…うん…」
二人は毛布に包まり、薫が持ってきた天体望遠鏡を覗いていた。
薫はメイドが運んできたココアを一口飲む。
「…泉は僕に恋してないって…はっきり言われちゃったからさ。仕方ない」
強がるように明るく笑う薫の可愛らしい鼻先は朱く染まっている。
「…そうか…」
「…司さんに恋してるって。…そんな気はしてたけどね」
「…うん…」
暁人は優しく相槌を打つ。
「だからもういいや。諦める。…泉は司さんに熨斗つけてあげる」
薫の声がか細く震える。
俯いた瞬間、暁人が毛布ごと薫を抱き締める。
「…薫…ちゃんと謝って偉かったな。…司さんに泉を託して、偉かったな…」
小さな子どもをあやすように軽く背中を叩く。
泣くかなと思ったが、薫は泣いてはいなかった。
ほっとしながら優しく囁く。
「…寂しいだろうけれど…」
「…お前が…」
「うん?」
ぶっきらぼうな声が暁人の胸元から響く。
「…お前が泉の代わりに側にいてくれたら、寂しくないかも…」
「…え…?…それって…」
驚いた暁人が薫の貌を覗き込む。
つんと顎を反らし、高慢ちきな口調で告げる。
「…お前を…幼馴染みから恋人に昇格してやる。…何年もしつこく口説かれてさ。僕もいちいち拒むのが面倒になってきたのさ。…だから…いい加減年貢を納めてやる」
けれど最後は少し照れたように笑ったのだ。
「薫!」
感激のあまり涙ぐみだした暁人に、薫は神妙に告げた。
「…暁人。…今までありがとう。…これから…よろしく」
そして、初めて薫から暁人に触れ合うだけの可愛らしいキスをした。
「…薫…」
感極まり、それ以上言葉にならない暁人に抱きつく。
はにかんだ声が囁く。
「…待ってて。少しずつ、お前に恋するから…」
薫の声は暁人の胸の中に消えていった。
満天の冬の星座は、まだ幼い恋人達の頭上で音もなく煌めき続けるのだった。