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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第10章 初月の夜も貴方と
ふっと我に帰った暁は、軽く頭を振り流しの前に立った。
…そんな自分の感傷より、月城の為に美味しいお雑煮を作らなくちゃ…。
厨房に置かれている土鍋の蓋を開ける。
琥珀色の綺麗な出汁がたっぷりと入っていた。
いとが出汁だけは引いておいてくれたのだ。
「能登のお雑煮はあご出汁で作るそうですよ。とびうおのお出汁です」
「あとは…」
いとの伝言を思い出す。
「魚屋に車海老を注文しておいてくれたっけ…」
戸棚の氷室に桐の箱があった。
蓋を開けると…。
「うわっ…!」
活きの良い車海老がおが屑から飛び出さん勢いで跳ね出した。
「…びっくりした…!こんなに元気な海老…初めて見たよ…」
慌てて蓋をする。
…実は活きた海老が苦手な暁であった。
まずは鍋に火をつけ、いとのメモに目を通す。
「出汁が沸いたら椎茸を入れて、お餅を煮る。…お餅が柔らかくなったら車海老を入れる。
朱い色になったらもう大丈夫…。
お椀によそって三つ葉と蒲鉾を飾り岩海苔を散らして出来上がり…か。
…思ったより簡単そうだ」
暁は胸を撫で下ろす。
出汁が沸いたのを確認し、丸餅を三つ鍋に入れ蓋をする。
暁は料理が全く出来ない。
ビストロ・アガタの社長なので一通りの洋食料理は身に付けたかったのだが、シェフについて習おうとする度に包丁で指を切ったり油が跳ねて火傷をしたりと怪我が絶えなかった。
それを知った礼也はひどく心配し、
「料理を習うのはもうやめなさい。お前の綺麗な手がそれ以上怪我をするのを見るのは耐えきれない」
と禁止を申し渡したのだ。
それでは自宅で月城の為に何か作ろうとすると、やはり月城がいつの間にか側に来ていて暁から包丁を取り上げ
「…礼也様に申し渡されたはずですよ。貴方はなにもなさらなくて良いのです。…貴方のこの手は私の為に綺麗なままでいてください…」
そのまま甘くくちづけられ…結局、暁は料理下手なままなのだ…。
「…みんな僕を子ども扱いしすぎだ。やればできるのに…!」
赤く燃える火を見ながら暁は満足げに唇を尖らせる。
…月城…喜んでくれる…かな。
考えることはいつも月城のことばかりだ。
暁は月城に常に喜びを与えて貰っているのに、自分は彼を喜ばせているのかどうか、全く自信がない。
月城は完璧な人間で、自分のように不器用で頼りないものでは本当は物足りないのではないか…と思うのだ。
…そんな自分の感傷より、月城の為に美味しいお雑煮を作らなくちゃ…。
厨房に置かれている土鍋の蓋を開ける。
琥珀色の綺麗な出汁がたっぷりと入っていた。
いとが出汁だけは引いておいてくれたのだ。
「能登のお雑煮はあご出汁で作るそうですよ。とびうおのお出汁です」
「あとは…」
いとの伝言を思い出す。
「魚屋に車海老を注文しておいてくれたっけ…」
戸棚の氷室に桐の箱があった。
蓋を開けると…。
「うわっ…!」
活きの良い車海老がおが屑から飛び出さん勢いで跳ね出した。
「…びっくりした…!こんなに元気な海老…初めて見たよ…」
慌てて蓋をする。
…実は活きた海老が苦手な暁であった。
まずは鍋に火をつけ、いとのメモに目を通す。
「出汁が沸いたら椎茸を入れて、お餅を煮る。…お餅が柔らかくなったら車海老を入れる。
朱い色になったらもう大丈夫…。
お椀によそって三つ葉と蒲鉾を飾り岩海苔を散らして出来上がり…か。
…思ったより簡単そうだ」
暁は胸を撫で下ろす。
出汁が沸いたのを確認し、丸餅を三つ鍋に入れ蓋をする。
暁は料理が全く出来ない。
ビストロ・アガタの社長なので一通りの洋食料理は身に付けたかったのだが、シェフについて習おうとする度に包丁で指を切ったり油が跳ねて火傷をしたりと怪我が絶えなかった。
それを知った礼也はひどく心配し、
「料理を習うのはもうやめなさい。お前の綺麗な手がそれ以上怪我をするのを見るのは耐えきれない」
と禁止を申し渡したのだ。
それでは自宅で月城の為に何か作ろうとすると、やはり月城がいつの間にか側に来ていて暁から包丁を取り上げ
「…礼也様に申し渡されたはずですよ。貴方はなにもなさらなくて良いのです。…貴方のこの手は私の為に綺麗なままでいてください…」
そのまま甘くくちづけられ…結局、暁は料理下手なままなのだ…。
「…みんな僕を子ども扱いしすぎだ。やればできるのに…!」
赤く燃える火を見ながら暁は満足げに唇を尖らせる。
…月城…喜んでくれる…かな。
考えることはいつも月城のことばかりだ。
暁は月城に常に喜びを与えて貰っているのに、自分は彼を喜ばせているのかどうか、全く自信がない。
月城は完璧な人間で、自分のように不器用で頼りないものでは本当は物足りないのではないか…と思うのだ。