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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第10章 初月の夜も貴方と
…夜の帳が深く降りた。
暁は庭に灯した雪灯籠を硝子越しに子どものようにうっとりと眺めていた。

月城は少し離れた場所で腕を組みながら、そんな暁を飽きることなく見つめている。
「…月城。雪、すごく積もったね…」
振り返る暁の瞳はきらきらと輝いていた。
月城は穏やかに微笑みながら暁に近づく。
「…お寒くありませんか?」
ややひんやりした白い夜着の肩を温めるように手を置く。
「大丈夫…。ねえ、明日雪だるまを作ろう?」
暁のほっそりとした美しい手が月城の手に重なる。
「雪だるま?」
「うん。作ったこと、ないんだ」
見上げる暁の瞳にはやや恥じらいの色があった。
「東京はあまり雪が積もりませんからね」
「…ううん。…雪遊びする暇なんてなかったから…」
月城はまたもや胸は切なく締め付けられる。
…あまり詳しく聞いたことはないが、暁は母親が寝込みがちになってからは学校もろくに通わずに近所の市場や商店で雑用仕事をこなして日銭を稼いでいたらしい。
母親を食い物にする女衒のような男たちにいかがわしい仕事をさせられそうになったこともあるそうだ。
その頃の話をする暁はとても辛そうで…だから月城は敢えて聞かないようにしていたのだ。
月城は背中から暁を守るように抱きしめた。
あやすように陽気に答える。
「雪だるま、作りましょう。…かまくらも…雪合戦もしますか?」
…あの頃、暁に与えられなかった子どもの楽しみを今自分が全て与えてやりたい。
暁は可笑しそうに笑った。
「嫌だよ。君は強そうだ」
「村一番の豪腕でした。泉もよく泣かせました」
二人は貌を見合わせて吹き出す。

一枚硝子の向こう側には、まるで雪の中に浮かび上がるかのように寄り添う二人の姿が見えた。
濃い藍色の中空からはいつ止むとは知れぬ雪が舞い落ちてくる。
…僕をひとりにしないで…。
ひとり残されるくらいなら、君が僕を殺していって…。

…暁が何を心配しているのか…手に取るように分かる。
二人が離れ離れになること…そしてひとり取り残されること…。

…しかし暁はまだ自分のことを分かっていない…
清らかな横顔を見ながら、月城は思った。
…月城もまた、暁のいない世界で生きていくつもりはないということを…。
暁のいない世界など、生きている甲斐もないのだということを…。
だから…暁を殺したのちは、自分も後を追うのだということを…。



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