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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第11章 海に映る星と月
能登に向かう汽車の車内で、暁は緊張のあまり何度も濃紺に水玉模様のタイのノットを気にする仕草をする。
そんな暁に月城はさりげなく声を掛ける。
「暁様。何か召し上がりますか?春さんのスモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチはとても美味しいのですよ」
「…ううん。まだいい」
形の良い薄紅色の唇に強張った笑みが浮かぶ。
「では、お茶を召し上がりますか?…熱いダージリンを召し上がれば少しはお気持ちが落ち着かれるかと思いますが…」
「ううん。まだいい…」
「…暁様…」
「…あっ…」
暁の手が月城のひんやりとした手に包まれる。
…反射的に周りを気にしたが…
ここは一等車なので二人以外乗客はいなかった…。
「…そんなに緊張されなくてよろしいのですよ。ただ私の故郷に立ち寄っていただくだけです。気楽なご旅行と思われてください」
向かい合わせに座った月城が暁の眼を覗き込むように言った。
繋がれた手から温かな気持ちが伝わってくる。
暁の胸が白湯を飲んだあとのようにほっと温まった。

「うん。…そうだね…」
暁は次々と変わる車窓の風景に眼を移した。
広い窓の外は、次第に雪深い平原と硬質な青鼠色の海辺の風景へと変わっていった。

「…ここに君といることが、夢みたいで…。
…嬉しすぎて、どきどきしてる…」
潤んだ美しい瞳が月城を見上げる。
「…暁様…」
月城は暁の手を取ると、恭しくその白い甲に口づけた。
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