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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第11章 海に映る星と月
「…月城…」
白い頬を桜色に染めながら、感に耐えたように呟く。
月城の美しい手を強く握り返す。

…本当に…こうして来られて良かった。
…兄さんのお許しが頂けて、良かった…。
暁は思い返すだけで、ほっとした。
そして、あの大変だった礼也とのやり取りの一部始終をつらつらと思い返した。


…二人で月城の故郷にゆきたいと、礼也に許しを貰いに行ったのが半月前のことだった。
礼也の書斎で月城は正装姿で暁と並び、誠意を込めて願い出た。

最近は月城にも蟠りのない柔和な笑顔をむけるようになった礼也だが、この日は違った。
男性らしく端正に整った貌を引き締め、月城を見据えた。
「それは、暁を君の家族に紹介するということだな?…しかも、暁を君の伴侶として…」
月城は少しも怯むことなく、礼也を見つめ返し返事をした。
「はい。礼也様」
「君の家族はすんなり暁を受け入るだろうか?…君の故郷は小さな村だったね。…君が暁を伴って帰郷したことは直ぐに村中に広まるだろう。その時、暁は好奇の目に晒されはしないだろうか?」
思わぬ厳しい言葉と口調に、暁は慌てて兄に声をかける。
「兄さん、僕なら大丈夫ですから…」
礼也は一転した優しい口調で、言い含めるように語り出す。
「暁。進歩的な都会の東京ですら、お前と月城くんとの関係は一部の信頼できる者にしか打ち明けていないのだよ。…都会でも理解が難しいことを、田舎の保守的な人々が認めてくれるだろうか。
謂れのない差別を受けないだろうか。
…私はお前が可愛い。お前が傷付くことを何よりも恐れているのだよ」
礼也の手が未だに陶器のように白く滑らかな暁の頬の線を愛しげに辿る。
「…兄さん…お気持ちは嬉しいですけれど…」
「月城くん。君はそこまで考えているのかね?」
厳しい言葉に月城は表情ひとつ変えず、穏やかに…しかし毅然として礼也を見つめ返した。
「はい。もちろんです。全ての可能性は想定済みです。…その上で暁様をお連れしたいと考えました。
私は必ず暁様をお守りいたします。悲しい思いはさせません。お約束いたします」
「兄さん。僕は月城と一緒なら何も怖くないんです。僕も月城の家族に会いたいのです。
けれど、僕の大切な兄さんのお許しがないと心が晴れません。だからお願いします。月城と行くことを許して下さい」
暁の黒目勝ちの大きな瞳が礼也を必死で見上げる。


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