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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第11章 海に映る星と月

翌日は眩いばかりの快晴であった。
庭の白梅に雪が降り積もっているのを、東京育ちの暁は興味深げに眺める。
「もう三月なのに、こんなに雪が降るなんて…」
「…北陸ではよくあることですよ。桜が咲いても雪が舞う日は珍しくありません」
まだ冷たさの残る早朝の風に乱された暁の髪を掻き上げてやる。
首筋に残る紅梅のように秘めやかな薄紅色の烙印をなぞる。
察した暁がはっと手を遣る。
「…私が噛んだ跡です…花が散ったように綺麗だ…」
見る見る間に白いうなじが朱に染まる。
「…ばか…。セーターに着替えてくる…」
母屋から軽い足音と嬌声が聞こえ、潤がこちらに駆けてきた。
「おじちゃま!ごはんですよっておかあちゃまが!」
二人は貌を見合わせて微笑む。
月城が潤を抱き上げる。
「ありがとう。潤」
「おじちゃま!じゅん、さんりんしゃ、ひとりでのれたの!」
巧みなお喋りに月城は優しく目を細める。
「そうか。潤はすごいな」
頭を撫ぜてやる仕草に、愛情が溢れている。
こうして見ると潤は本当に月城に良く似ている。
子どもながら端正な貌立ちをしていて、一見すると親子のような二人だ。
その姿を見つめながら、ふと潤を養子にして育てられたら…という夢のような願いが頭に思い浮かび、慌てて打ち消した。
…いくら月城に似た子どもが欲しいからと言って…そんなこと…。
潤くんは凛さんと鶴来さんの大切な子どもなのに…。
「…暁様…?」
物思いに耽る暁を案じるように月城が振り返る。
「ううん。何でもない。…母屋に行こうか」
明るく笑ってみせる。
…自分は月城のことになると、どうしてこんなにも業深く、欲深くなるのだろうか…。
空恐ろしくなると同時に、己れの月城への愛の深さを改めて思い知らされ、切なくなる。
…暁はそっと月城の手を握りしめる。
月城はそんな暁を優しく見下ろし、強く手を握り返してくれた。
凛の心尽しの朝食後、暁と月城は散歩に出かけた。
「暁様にお見せしたい場所があるのです」
そう言うと、暁の首筋にカシミアのマフラーを掛けてやる。
「どこに行くの?」
降り積もった雪道に、暁が脚を取られないようにしっかりと手を繋ぐ。
月城は目を細めて微笑った。
「…私の原点です」
庭の白梅に雪が降り積もっているのを、東京育ちの暁は興味深げに眺める。
「もう三月なのに、こんなに雪が降るなんて…」
「…北陸ではよくあることですよ。桜が咲いても雪が舞う日は珍しくありません」
まだ冷たさの残る早朝の風に乱された暁の髪を掻き上げてやる。
首筋に残る紅梅のように秘めやかな薄紅色の烙印をなぞる。
察した暁がはっと手を遣る。
「…私が噛んだ跡です…花が散ったように綺麗だ…」
見る見る間に白いうなじが朱に染まる。
「…ばか…。セーターに着替えてくる…」
母屋から軽い足音と嬌声が聞こえ、潤がこちらに駆けてきた。
「おじちゃま!ごはんですよっておかあちゃまが!」
二人は貌を見合わせて微笑む。
月城が潤を抱き上げる。
「ありがとう。潤」
「おじちゃま!じゅん、さんりんしゃ、ひとりでのれたの!」
巧みなお喋りに月城は優しく目を細める。
「そうか。潤はすごいな」
頭を撫ぜてやる仕草に、愛情が溢れている。
こうして見ると潤は本当に月城に良く似ている。
子どもながら端正な貌立ちをしていて、一見すると親子のような二人だ。
その姿を見つめながら、ふと潤を養子にして育てられたら…という夢のような願いが頭に思い浮かび、慌てて打ち消した。
…いくら月城に似た子どもが欲しいからと言って…そんなこと…。
潤くんは凛さんと鶴来さんの大切な子どもなのに…。
「…暁様…?」
物思いに耽る暁を案じるように月城が振り返る。
「ううん。何でもない。…母屋に行こうか」
明るく笑ってみせる。
…自分は月城のことになると、どうしてこんなにも業深く、欲深くなるのだろうか…。
空恐ろしくなると同時に、己れの月城への愛の深さを改めて思い知らされ、切なくなる。
…暁はそっと月城の手を握りしめる。
月城はそんな暁を優しく見下ろし、強く手を握り返してくれた。
凛の心尽しの朝食後、暁と月城は散歩に出かけた。
「暁様にお見せしたい場所があるのです」
そう言うと、暁の首筋にカシミアのマフラーを掛けてやる。
「どこに行くの?」
降り積もった雪道に、暁が脚を取られないようにしっかりと手を繋ぐ。
月城は目を細めて微笑った。
「…私の原点です」

