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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第11章 海に映る星と月
母の心尽しの夕餉のあと、後片付けを終えた暁の姿が見当たらないことに気づいた月城は、外に探しに出かけた。
…今宵は満月の夜だ。
春は名のみの北陸の夜は冷える。
…暁様はどこに行かれたのだろうか…。
また薄着に違いない。お風邪を召されなければいいが…。
案じながら、家の前の浜辺に続く道を行く。
青白い月の光に照らされた漆黒の闇よりも尚暗い夜の海が横たわっていた。
磯の香りに懐かしい郷愁を覚えていると、浜辺近くに夜目にも白い夜着姿の暁が佇んでいるのが見えた。
その後ろ姿は漆黒の海に飲み込まれそうなほどに華奢で儚げで、月城は思わず叫んでいた。
「暁様!」
暁がゆっくりと振り返る。
「…月城…」
闇夜の中に浮かぶ美しい夜光花のような白い微笑を暁は浮かべた。
「こんなところで…どうされたのですか?いらっしゃらなかったのでお探ししました。迷子にでもなられているのではないかと…」
暁は可笑しそうに笑いながら月城を見上げる。
「子どもじゃないんだよ。君は心配性だな」
抱きしめた暁の肩は案の定冷え切っていて、月城を不安にさせる。
「またこんな薄着で…。お風邪を召されます」
そっと合わせた頬もひんやりと冷たくて、月城をやるせなくさせる。
「大丈夫だよ。…ねえ、月城…今、君が生まれ育った海を見ていたんだ。
夜の海は暗くて怖いかと思ったけれど…なんだか懐かしい感じがして、落ち着くんだ。
…母さんの子宮の中はこんな感じだったのかな…て…」
「…暁様…?」
月城は眉を顰める。
…暁が亡くなった母親の話をするときは精神が不安定な時が多いからだ。
案じる月城の気持ちを推し量ったかのように暁が笑った。
「大丈夫。心配しないで。…僕は今、凄く嬉しいんだ。嬉しくて嬉しくて…たまらなくて家を飛び出してきた」
「…嬉しい…?何があったのですか?」
尋ねる月城に、暁は星屑のように瞳を煌めかせて見上げる。
「お母さんが、言ってくれたんだ。…森をよろしくお願いします…て…二人で幸せになってください…て…」
…森は暁様やないときっとあかんのです。
母親やから分かります。
暁様は貴族で森は平民です。これから大変なこともあるかも知れませんが、二人仲良う生きていってください。
私の願いはそれだけです…。
そう言って笑った楓の眼差しは、月城にとても良く似て優しかった。
…今宵は満月の夜だ。
春は名のみの北陸の夜は冷える。
…暁様はどこに行かれたのだろうか…。
また薄着に違いない。お風邪を召されなければいいが…。
案じながら、家の前の浜辺に続く道を行く。
青白い月の光に照らされた漆黒の闇よりも尚暗い夜の海が横たわっていた。
磯の香りに懐かしい郷愁を覚えていると、浜辺近くに夜目にも白い夜着姿の暁が佇んでいるのが見えた。
その後ろ姿は漆黒の海に飲み込まれそうなほどに華奢で儚げで、月城は思わず叫んでいた。
「暁様!」
暁がゆっくりと振り返る。
「…月城…」
闇夜の中に浮かぶ美しい夜光花のような白い微笑を暁は浮かべた。
「こんなところで…どうされたのですか?いらっしゃらなかったのでお探ししました。迷子にでもなられているのではないかと…」
暁は可笑しそうに笑いながら月城を見上げる。
「子どもじゃないんだよ。君は心配性だな」
抱きしめた暁の肩は案の定冷え切っていて、月城を不安にさせる。
「またこんな薄着で…。お風邪を召されます」
そっと合わせた頬もひんやりと冷たくて、月城をやるせなくさせる。
「大丈夫だよ。…ねえ、月城…今、君が生まれ育った海を見ていたんだ。
夜の海は暗くて怖いかと思ったけれど…なんだか懐かしい感じがして、落ち着くんだ。
…母さんの子宮の中はこんな感じだったのかな…て…」
「…暁様…?」
月城は眉を顰める。
…暁が亡くなった母親の話をするときは精神が不安定な時が多いからだ。
案じる月城の気持ちを推し量ったかのように暁が笑った。
「大丈夫。心配しないで。…僕は今、凄く嬉しいんだ。嬉しくて嬉しくて…たまらなくて家を飛び出してきた」
「…嬉しい…?何があったのですか?」
尋ねる月城に、暁は星屑のように瞳を煌めかせて見上げる。
「お母さんが、言ってくれたんだ。…森をよろしくお願いします…て…二人で幸せになってください…て…」
…森は暁様やないときっとあかんのです。
母親やから分かります。
暁様は貴族で森は平民です。これから大変なこともあるかも知れませんが、二人仲良う生きていってください。
私の願いはそれだけです…。
そう言って笑った楓の眼差しは、月城にとても良く似て優しかった。