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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
春の夕暮れは、空を薄い茜色にゆっくりと染め上げる。
暁は浅草寺の塔を見るともなく見ながら、想いを馳せる。
…月城と、まだ浅草寺に来たことがなかったな…。
月城は教会の炊き出しを何度か手伝ってくれたこともあるのだが、そのあとは二人で慌ただしく帰ることが多く、浅草寺まで足を延ばすことはなかった。

…今度、月城と一緒にお参りに行きたいな…。
浅草育ちの暁にとって浅草寺は庭のような場所だ。
身近すぎて月城を誘うことも忘れていたのだ。
…お参りしたら、二人で何を祈ろう…。
月城の健康と仕事の成功と…それから…

「…何を考えていらっしゃるんですか?」
はっと我に帰ると、思わぬ近さで藍染が暁を見つめていた。
「…月城さんのことですか?」
占い師のように当てられ、貌を硬ばらせる暁に藍染は慌てて詫びる。
「すみません。不躾に…」
「君は…僕と月城のことを知っているの…?」
…北白川伯爵家に仕える使用人は大抵は月城と暁の関係を知っていて、黙認している。
しかし、新人の藍染がそのことを知っているとは思わなかったのだ。
…返事によっては、 月城に不利なことを齎すのではないかと暁は警戒した。
結婚したと言ってもそれは事実上で、認めてくれているのは縣家の人々と会社の信頼できる社員たち…そして北白川家の理解ある人々だけだ。
社交界の人々には勿論まだ秘密だし、警戒し過ぎということはない。
特に月城に不利な言質は、絶対に取られる訳にはいかない。
暁は藍染が何を言い出すのか、緊張した面持ちのまま彼を見上げた。

「そんなに怯えないで下さい。貴方と月城さんとの関係は月城さんに伺いました。
…僕は…暁様を恋人になさっている…いや、ご結婚までされている月城さんが羨ましいと申し上げたのです」
暁を安心させるように温かな笑いを浮かべながら説明する。
「…そう…」
やや安堵して息を吐く。

「…けれど、月城さんにひどく叱られました。この屋敷では自分と暁様との話を決して口にするなと。他言無用だと…」
「…え?」
藍染の言葉が暁の胸を鋭く刺した。
「…月城が…そう言ったの?」
…月城は…僕との関係をそんなに隠したいのか…?

「ええ。ですから、決して他には漏らしません。お二人の秘密は守りますとお誓いしたのです」
「…秘密…」
…月城にとって、僕との関係は秘密にしなくてはならないことなのか…?

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