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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
春らしい柔らかな陽光のもと、暁は菫を連れて屋敷の庭園を散歩していた。
…菫は今年4歳になる。
光に良く似た飛び切りの美少女な上におしゃまで言葉も達者なので、誰からも愛される縣家の天使のような存在だ。
菫は暁が大のお気に入りだ。
暁の手を握りしめながら、盛んにお喋りをする。
「暁おじちゃま!おじちゃまはあざぶじゅうばんのおうちにはお帰りにならないの?」
暁は苦笑する。
「…う…ん…。帰りたいんだけど…。帰っても誰もいないんだ…」
…大好きな家だけれど…月城がいない家は、ただの愛の抜け殻だ…。
菫の愛らしい貌がみるみるうちに曇る。
「…だれもいないの?おひとりなの?」
暁は菫に優しく微笑みかけながら、抱き上げる。
「そうだよ。おじちゃまはひとりぼっちなんだ」
菫からは甘いミルクの香りがした。
…雪のように白い肌、大きく澄んだ瞳、形の良い整った鼻、茱萸のように紅い小さな唇…。
礼也と光の愛の結晶は、うっとりするほど美しい姿をしている。
…やっぱり…義姉さんが羨ましい…。
暁は寂しさと妬心が僅かに透ける眼差しで、菫を見つめる。
「…おじちゃま、おかわいそう…」
菫の無垢な瞳にはうっすら涙さえ浮かんでいた。
「ありがとう、菫」
暁は菫のつやつやした美しい髪を撫でる。
「おかわいそうだから、菫、おじちゃまのおよめちゃまになってあげる!」
得意げな菫の言葉に、暁は思わず笑いだした。
「…それは…ありがとう。嬉しいよ、菫。
…でも、菫がお嫁様になる年にはおじちゃまはもうおじいちゃまだ。残念!」
「え〜?おじちゃまがおじいちゃまに?しんじられない!おじちゃまはこんなにおきれいなのに!」
「残念だけどそうなんだ。ごめんね、菫。君をお嫁様に貰いそこねた」
高い高いをしてやると、菫の薄いブルーのシフォンのワンピースがふわりと春の空に広がり、煌めいた。

「…暁おじちゃまをお嫁様に欲しい人はたくさんいるんだがね。…僕はとうにその権利を失っているけれど…」
背後の白い蔓薔薇のアーチから、美しいバリトンの声が響き、暁は菫を抱いたまま振り返る。
「春馬さん…!」

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