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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
「ご機嫌よう。暁、菫ちゃん。…まるでお伽話から抜け出してきたような二人だね。僕に画才があればキャンバスに描き写したいほどに美しいよ」
ほんの少し目尻に皺を寄せながら、大紋は笑ってゆっくりと歩み寄る。
「…春馬さん…」

うららかな春の陽射しの中に佇む男は、すらりと高い背に舶来の流行をさりげなく取り入れた洒落たスーツ姿が良く似合っていた。
大紋も礼也と同い年だから、そろそろ五十に手が届こうかという年齢のはずだが、豊かな髪や張りのある若々しい肌、引き締まった体躯など、およそ三十代後半くらいにしか見えないような男振りであった。

暁はほんの少しだけ胸が甘く疼き…そんな自分を戒めるように明るく笑った。
「おはようございます。お久しぶりですね。今日は…?」
「礼也に直接渡したい案件があってね。…君が来ていると聞いて、広い庭園を探し回っていたのさ。
…さながら眠れる森のオーロラ姫を助け出す王子のように…て、王子には大分薹が立ち過ぎたな…」
二人は貌を見合わせて笑う。
…大紋といると昔のように、包み込まれるような温かさと安心感を覚える。
しみじみと噛み締めていると、大紋が暁の腕の中の菫を優しく抱き取った。
「菫ちゃん、ご機嫌よう。相変わらず君は美人さんだね」
まるい頬を突かれ、菫は声を上げて笑う。
「千疋屋のフルーツゼリーをお土産に持ってきたよ。お十時に召し上がれ」
「ほんとに?だいもんのおじちゃまだいすき!」
菫は天使のように無垢なキスを大紋の頬に与えた。

縞のドレスにエプロンを付けたナニーがお辞儀をしつつ、にこにこしながら現れる。
「さあさあ、菫様。お手を洗ってお部屋でゼリーをいただきましょうね」
菫は素直にナニーに抱かれ、二人に手を振ってみせた。

ナニーと菫が遠ざかるのを見送ると、暁は大紋を見上げ美しく澄んだ瞳で微笑んだ。
「…温室へいらっしゃいませんか?…珍しい新種の薔薇が咲いていますよ…」
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