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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
「お帰りなさい!月城…!」
夜半を過ぎていたのに月城が玄関に立つと、あっと言う間に暁が奥から現れた。
「どうしたの?今夜は会えない…て諦めていたのに…」
月城の首筋に腕を絡め、強く抱きついてきた。
…夜に咲く異国の白い密やかな花のような薫りが月城を包み込む。
月城は瞼を閉じて、暁を抱きしめ返す。
…どんな理想郷よりも…この稀有に美しい方を守らなければならない…。
「…貴方に無性に会いたくなったのです…」
腕を解いて両手でその愛おしい貌を包み込む。
「…嬉しい…」
桜色に染まった頬に喜びの笑顔が輝き出す。
くちづけをしようとして思い留まり…
「…シャワーを浴びてまいります。雑踏を歩いてまいりましたので…」
…貴方を汚したくない…
そう囁きながら、優しく白い頬を抓る。
「うん…。待ってる…」
恥じらいながら月城を見上げる。


バスルームからは月城がシャワーを使う水音が聞こえる。
、暁は新しいタオルとバスローブを手に隣の脱衣所に入る。
それらを棚に置きながら、ふと脱いだままになっている黒いスーツの上着を手に取る。
…珍しく脱ぎっぱなしだ…。
微笑ましく思いながらハンガーに掛けようと広げた刹那、胸ポケットから折りたたまれた紙がひらりと床に落ちた。
…なんだろう…。
勝手に見るのは憚られたが、何とはなしに胸が騒ぎ…そっと紙を開いた。

「…⁈…」
粗悪な藁半紙に印刷された文字に暁の表情が凍りつく。
…マルクス…反社会…反政府…市民革命…決起集会…
禍々しくも危険な文字が踊っていた。
不平等な社会と政治を糾弾し、革命の有志を募る決起集会を開催する旨のビラであった。
暁は震える手でビラを畳み直し、スーツの胸ポケットに押し込める。
動悸を抑えるだけで精一杯であった。


…まさか…
シャワーの水音は、続いている。
恐る恐るバスルームの方を振り返る。
摺り硝子越しに、月城の細身だが逞しい裸体のシルエットが浮かび上がる。

…まさか…月城が…
暁は瞬きもせずに、男のシルエットを茫然と見つめ続けた。

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