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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
招待客が一斉に二人に注目する。
音楽以外に話し声はなく水を打ったようにしんと静まり返る中、鬼塚と暁は手を取り合い、ワルツを踊り始める。
鬼塚のステップは意外なほどに滑らかだった。
西洋舞踏など踊ったことがないと思っていた暁は内心踊いた。
暁の手を握り、鬼塚は面白そうに笑う。
「意外か?」
「…ええ…。ワルツ…踊れたのですね…」
「憲兵隊は、近衛隊や海軍と違い雑草育ちばかりだからな。
…俺などその典型だ。上州の水飲み百姓の生まれだ。
ワルツは憲兵隊に入って習った。
上司の命令だ。…俺たちの仕事はどんな場所に潜入するか分からんからな」
暁は素直に感心する。
…けれど、油断はならない。
「お上手で驚きました。
…で?わざわざ夜会にまで来られて私を探された理由は?」
硝子細工で出来たような繊細な美貌が緊張感を帯びているのを、機嫌良さげに眺める。
「…察しはついているのではないか?もちろんあんた自身の用件ではない」
暁は瞬きもせずに、鬼塚を見つめた。
優雅なヨハン・シュトラウスの調べに合わせて、二人は滑らかに踊り続ける。
「…はっきり仰って下さい」
「…月城森」
とっておきの言葉を口にするように、男はその名前を出した。
握られた暁の手が冷たくなった。
その手を黒革の手袋が強く握りしめる。
「…あんたの最愛の恋人だな」
「ええ。そうです。彼が何か?」
怯まずに鬼塚を見返す。
「月城の身辺を調べてあんたの名前が挙がった。事実上結婚していると…。男同士じゃないか。俺は興味が湧いた。で、今夜ここに来た。
…そして、あんたを見て納得した。こんな美人なら男でも有りだとな。
…俺は今までこんなに綺麗な男を見たことがない」
図らずも暁の美貌に魅せられたように隻眼を輝かせ、唄うように告げる。
暁の眼差しに初めて怒りの炎が宿った。
「早くご用件を仰って下さい。このままでは皆が不自然に思います」
鬼塚は低く笑った。
「見かけによらず気の短い坊やだ。
…いいだろう。教えてやる」
黒革の手袋に包まれた手が暁を引き寄せ、その細腰に回された手が強引に抱き寄せる。
そうしてくちづけするような距離で、薄い唇がさらりと囁いた。
「月城森は反政府運動の首謀者の友人だ。
そして彼は今、要注意人物として憲兵隊からマークされている」
音楽以外に話し声はなく水を打ったようにしんと静まり返る中、鬼塚と暁は手を取り合い、ワルツを踊り始める。
鬼塚のステップは意外なほどに滑らかだった。
西洋舞踏など踊ったことがないと思っていた暁は内心踊いた。
暁の手を握り、鬼塚は面白そうに笑う。
「意外か?」
「…ええ…。ワルツ…踊れたのですね…」
「憲兵隊は、近衛隊や海軍と違い雑草育ちばかりだからな。
…俺などその典型だ。上州の水飲み百姓の生まれだ。
ワルツは憲兵隊に入って習った。
上司の命令だ。…俺たちの仕事はどんな場所に潜入するか分からんからな」
暁は素直に感心する。
…けれど、油断はならない。
「お上手で驚きました。
…で?わざわざ夜会にまで来られて私を探された理由は?」
硝子細工で出来たような繊細な美貌が緊張感を帯びているのを、機嫌良さげに眺める。
「…察しはついているのではないか?もちろんあんた自身の用件ではない」
暁は瞬きもせずに、鬼塚を見つめた。
優雅なヨハン・シュトラウスの調べに合わせて、二人は滑らかに踊り続ける。
「…はっきり仰って下さい」
「…月城森」
とっておきの言葉を口にするように、男はその名前を出した。
握られた暁の手が冷たくなった。
その手を黒革の手袋が強く握りしめる。
「…あんたの最愛の恋人だな」
「ええ。そうです。彼が何か?」
怯まずに鬼塚を見返す。
「月城の身辺を調べてあんたの名前が挙がった。事実上結婚していると…。男同士じゃないか。俺は興味が湧いた。で、今夜ここに来た。
…そして、あんたを見て納得した。こんな美人なら男でも有りだとな。
…俺は今までこんなに綺麗な男を見たことがない」
図らずも暁の美貌に魅せられたように隻眼を輝かせ、唄うように告げる。
暁の眼差しに初めて怒りの炎が宿った。
「早くご用件を仰って下さい。このままでは皆が不自然に思います」
鬼塚は低く笑った。
「見かけによらず気の短い坊やだ。
…いいだろう。教えてやる」
黒革の手袋に包まれた手が暁を引き寄せ、その細腰に回された手が強引に抱き寄せる。
そうしてくちづけするような距離で、薄い唇がさらりと囁いた。
「月城森は反政府運動の首謀者の友人だ。
そして彼は今、要注意人物として憲兵隊からマークされている」