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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
暫しの沈黙ののち、穏やかな礼也の声が聞こえてきた。
「…そうか…。そうだったのか…。そう言えば、辻褄が合うことがたくさんあるな…。
お前が絢子さんと結婚した途端、暁はお前と疎遠になった。…そうだったのか…」

…遠い昔の今も胸が痛む記憶だ…。
礼也の母親が暁を妬み、大紋との関係を礼也や世間に暴露すると脅された暁は、大紋から身を引いたのだ。
…大紋の社会的地位を汚さぬようにと、ただひたすらそのことだけを願い…。
勿論礼也はそのことを知らない。伝える気もない。
自分と暁が別れなくてはならなくなったのは、結局は自分の弱さのせいなのだ。
絢子を振り切れなかった弱さが、暁に別れを踏み切らせたからだ。
暁一人を苦しませた…。
そのことが未だに残る最大の後悔だ。

…だが、彼は愛するひとと巡り会った。
彼を愛し、希望へと導いていった美しい男…。
一途な暁は、全身全霊で彼を愛した。
そのことをかつては羨み嫉妬もしたが、今は違う。
…暁が運命のひとに巡り会えたことを、心から良かったと思っている。

あの夜…暁から与えられた決別のくちづけが、大紋の心に残っていた暁への恋慕の情を全て綺麗に持ち去ってくれた…。
あるのはただ、彼への祈りの気持ちと甘く美しい恋の記憶だけだ…。

大紋は自らに語りかけるように話し始めた。
「…色々あったよ。…僕たちは真剣に愛し合った。
運命の悪戯で添い遂げることはできなかったが、今はもう後悔はしてはいない。
暁は愛するひとに巡り会えた…。月城こそが、暁の唯一の運命のひとだ。…僕ではない。
そのことを、僕は良かったと思っている」

…ただ…と、切なげに付け加える。
「…あんなにも…身も心も全てを捧げてもいいと…激しく一人のひとを愛したのは…暁だけだ。彼以外にはいない」
礼也は暫く沈黙を守っていたが、やがて秘密を告白するかのように告げた。
「…少し…お前の気持ちが分かる。…私も、暁の兄でなかったら…光さんと巡り会っていなかったら…そう考えたことがある」
驚いたように眼を見開く大紋に、礼也は悪戯めいた目配せをした。
「光さんには内緒だ」

二人の男は、窓硝子越しに降り積もる聖夜の雪を見つめた。
考えていることは同じだった。
…あの稀有なまでに美しく艶やかなひとへの追憶と憧憬と…そして何より、祈りの気持ちであった。

…暁が…二人が幸せでありますように…と。


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