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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
…大紋は屋敷の中から響く賑やかな笑い声を背に、新雪が降り積もり始めた広大な庭園に出た。
息も凍るほどに寒かったが、何とは無しに歩きたかったのだ。
撃たれて傷を負った脚は、未だに時々痛む。
それ故にやや脚を引き摺って歩くようになってしまったことを、礼也は済まながったが大紋は全く気にしてはいなかった。
医者は次第に滑らかに歩けるようになると言ってくれたが、大紋はこのままで構わないとさえ思っている。
…この傷は、暁へ捧げられた唯一の形見なのだ。
そう思うと、この脚が…この傷が愛おしかった。

縣家の自慢の庭園も今宵は白銀の世界と化していた。
まるで童話の雪の女王の世界だ…。
大紋は何かに引き寄せられるかのように、雪を踏みしめながら、歩き続けた。

邸宅の周りは深い林のように背の高い樫の木が植えられている。
冬枯れの木の枝にも静かに雪は降り積もり始めていた。
その美しい風景に眼を奪われていると、大紋はふとガス灯の下に佇む人影に気づいた。
縣家に用がある人でなければ近づかないような場所だ。
大紋は青銅の柵に静かに近づいていった。

…背の高い…まだ若い男の姿が見て取れた。
枯葉色の分厚い外套の下に覗くのは…黒い軍服だ。
軍帽の下の引き締まった横顔が灯りに照らされている。
「…この家に何か用かな?」

若い軍人はゆっくりと大紋の方を振り返った。
…その貌には黒いアイパッチが装着されていた、
大紋は眼を見張った。
「君は…!鬼塚少佐⁈」
鬼塚は薄い唇を歪め、にやりと笑った。
「…あんた、生きていたのか」
大紋は柵の前まで近づく。
「…君は射撃が不得手なのか?すっかり的外れで軽傷だったよ。お陰様でね」
軽口を叩きながらも、やや警戒しながら尋ねる。
「何をしにきた?」





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