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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
鬼塚は肩を竦めて見せた。
「安心しろ。あの二人を追跡しに来た訳じゃない。
彼らはもうとうに外国に逃げ延びているのだろう?」

無言の大紋に、鬼塚はさらりと言ってのけた。
「俺にはもう彼らを捜査する権限もない。
…あんた、西坊城閣下の娘婿なんだな。
そのあんたを銃撃し怪我を負わせたことで俺は軍法会議にかけられた。
そして軍曹にまで降格させられた。
まあ、懲役刑にならなかっただけマシだがね。
西坊城閣下は相当激怒されていたらしいからな。
あんた、舅に随分と愛されているんだな」
大紋は穏やかに答える。
「西坊城の義父は優しい方だよ。私のこともずっと大切にしてくださっている」

かつて彼の娘の絢子は、自殺未遂までして大紋を恋慕っていた。その結果、絢子と結婚した大紋に彼はずっと恩を感じ続けているようだ。
大紋が撃たれたことも大変に心配し、鬼塚のことを憤っていた。
「…義父は穏健派だ。憲兵隊の行き過ぎた捜査に常々疑念を抱いていたらしい。だから君の降格は私だけの原因ではないと思うがね」
鬼塚は首を振る。
「別に恨み言を言いに来た訳じゃない。
…むしろ恨まれるのは慣れている。俺はいつ刺されても不思議はない人生を送って来たからな。後悔もしていない。
悪いがあんたを撃ったこともだ」
アイパッチをした横顔は、年相応のまだ未成熟な青さが微かに残る若者に見えた。
「なぜここに来た?」

鬼塚は再びにやりと笑った。
「硫黄島への出征が命じられた。これから発つ」
大紋は愕然とした。
…硫黄島…最前線の戦地だ。
百戦錬磨の軍人ですら、二の足を踏む激戦の戦地…。
そして…未だに生きて帰還した者はいない。
…これが、鬼塚に課せられた刑罰なのだ。

黙り込んだ大紋を可笑しげに笑う。
「あんた、何て貌をしているんだ。…全く、ブルジョワの旦那はこれだからな。そんな甘ちゃんだから昔の恋人を庇って負傷するなんてヘマをするんだ」
「…鬼塚少佐…」
「鬼塚軍曹だ」
隻眼の端正な貌が不意に引き締まる。
「俺は軍人だ。戦ってこそ俺の存在意義がある。
俺は日本を勝利に導く。絶対に負けない」
大紋は親しい年若の友人に語りかけるように答えた。
「…ああ、君は死にそうにはないな。がさつな君に美しい悲劇は似合わない」
「なんだよ、インテリのオッサン。結局貶しているのか」
二人は束の間旧知の友のように笑い合った。







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