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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
…あれは、暁と月城がパリに渡り、間もなくのことだった。
二人はパリの風間家に身を寄せていた。
風間忍は二人を大歓迎した。
贅を尽くしたもてなしのディナーのあと、彼は真剣に語りかけた。
「暁、月城さん。どうかここが君たちの家だと思って、いつまでも我が家に居てくれ。司は君の兄上の屋敷で大切にしていただいていると聞く。
戦争が本格的に始まり、もはや民間人は渡航できなくなってしまった。
…司が心配でも、我々にはもうどうすることもできない」
忍の傍に静かに座っていた妻の百合子が思わず嗚咽を漏らした。
その隣で母親のドレスのスカートにしがみつくようにしていた娘の瑠璃子が、母親譲りの美しい貌を曇らせた。
「…お母様…」
忍は百合子の肩を優しく抱き、額にキスを与え落ち着かせる。
「大丈夫だ、百合子。司は縣家にお世話になっているのだ。どこよりも安全なのだよ」
「…ええ…ええ…そうですわね。
縣様はご夫妻でとてもご立派でお優しい方々ですわ。
…先日のお手紙でも、司を必ず守ると有難いお言葉を頂戴いたしました。
…取り乱したりいたしまして、申し訳ありません」
白いハンカチを握りしめ、小さいながらもはっきりとした声で告げる百合子から母親の愛情が痛いほど伝わって来る。
百合子はその楚々とした美貌に懸命に微笑みを浮かべる。
「…もう二十歳ですのに…可笑しいでしょう。
司は私がつい甘やかしてしまったので、年より幼い気がして…。世間知らずで甘えん坊な子どもです。
…そんな司が戦争が始まった日本で、無事に生きてゆけるのか、心配で心配で…夜も眠れない日々でございました。
日本に留学することを、許可しなければ良かったと悔やむ日々でございました。
…ですから、縣様より温かいお手紙を頂いて、どれだけ心強かったことでしょう。
…ありがとうございます」
そして百合子は暁と月城の方に改めて向き合うと、凛とした口調でこう宣言したのだった。
「どうぞいつまでもこちらにいらしてください。
…暁様には、かつて私達の窮地を救っていただきました。
今度は私達がお返しをする番です」
二人はパリの風間家に身を寄せていた。
風間忍は二人を大歓迎した。
贅を尽くしたもてなしのディナーのあと、彼は真剣に語りかけた。
「暁、月城さん。どうかここが君たちの家だと思って、いつまでも我が家に居てくれ。司は君の兄上の屋敷で大切にしていただいていると聞く。
戦争が本格的に始まり、もはや民間人は渡航できなくなってしまった。
…司が心配でも、我々にはもうどうすることもできない」
忍の傍に静かに座っていた妻の百合子が思わず嗚咽を漏らした。
その隣で母親のドレスのスカートにしがみつくようにしていた娘の瑠璃子が、母親譲りの美しい貌を曇らせた。
「…お母様…」
忍は百合子の肩を優しく抱き、額にキスを与え落ち着かせる。
「大丈夫だ、百合子。司は縣家にお世話になっているのだ。どこよりも安全なのだよ」
「…ええ…ええ…そうですわね。
縣様はご夫妻でとてもご立派でお優しい方々ですわ。
…先日のお手紙でも、司を必ず守ると有難いお言葉を頂戴いたしました。
…取り乱したりいたしまして、申し訳ありません」
白いハンカチを握りしめ、小さいながらもはっきりとした声で告げる百合子から母親の愛情が痛いほど伝わって来る。
百合子はその楚々とした美貌に懸命に微笑みを浮かべる。
「…もう二十歳ですのに…可笑しいでしょう。
司は私がつい甘やかしてしまったので、年より幼い気がして…。世間知らずで甘えん坊な子どもです。
…そんな司が戦争が始まった日本で、無事に生きてゆけるのか、心配で心配で…夜も眠れない日々でございました。
日本に留学することを、許可しなければ良かったと悔やむ日々でございました。
…ですから、縣様より温かいお手紙を頂いて、どれだけ心強かったことでしょう。
…ありがとうございます」
そして百合子は暁と月城の方に改めて向き合うと、凛とした口調でこう宣言したのだった。
「どうぞいつまでもこちらにいらしてください。
…暁様には、かつて私達の窮地を救っていただきました。
今度は私達がお返しをする番です」