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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
暁は眼を見張った。
「…月城…」
「お気を悪くされましたか?」
首を振り、しみじみとする。
「…なんだか…変わったね…。日本にいる時はそんなことは言わなかった。とても理性的で禁欲的で倫理に厳しかった」
日本にいた頃の月城は、上質な象牙色の肌をして…その端正な貌には喜怒哀楽を殆ど表さない…美しい作り物の人形のようだった。

暁は眼の前の男を見る。
…今は…。
…綺麗な小麦色の肌、彫りの深い怜悧な目鼻立ちは相変わらずだが、そこに浮かぶ表情はどこか吹っ切れたような大人の余裕と…そして微かに哀愁が漂う人間じみたものだ。

月城は無造作に髪を搔き上げ、緩く結んでいた麻の布をはらりと解く。
さらさらとした美しい長い黒髪が肩に広がる。

…まるで…お伽話の海賊みたいだ…。
美しく…野蛮で…危険な香りがする…海の海賊…。
暁の胸の奥が甘く疼いた。

月城はそんな暁を瞬きもせずに淫蕩な色を濃くして見つめながら、テーブル越しに貌を近づけた。
「…そう。…私は変わったのです。…日本にいる時は立場や身分やしがらみに縛りつけられて、貴方に辛い思いばかりさせていた。…私はここに住むようになって、生まれ変わったような気がします。
…自由に貴方を愛せるようになった。そうすると自由に物事を考えられるようになったのです」
…潮の香りと…そして変わらぬ水仙の香り…。
変わってしまったようで、変わっていない月城がここにいる…。

暁はその唇にそっとくちづける。
そして、優しく囁く。
「…どっちの君も僕は大好きだ。…愛している…」
「…暁様…!」
続けようとした愛の言葉は、月城の荒々しくも甘いくちづけに奪われる。
…だから、微笑みながらこう告げる。
「…ベッドに連れていって…。もう酔っちゃった…」





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