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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
「…ああ…っ…しん…いい…っ…も…っ…と…!…」
寝室には月城の荒々しい吐息と暁の切なげな喘ぎ声…そして、暁の眩暈がするような淫靡な花の薫りに満ち溢れていた。
開け放たれた窓からは夜の海の湿り気を含んだ潮風が静かにそよぐ。

…波の音…潮の香り…暁を思う様奪ってゆく男の身体からも潮の香りが漂う…。
さながら、海の上で傍若無人な海賊に荒々しく犯されているような幻想を抱く。
…月城ではない誰かに…無理やり犯されているような…淫らな幻想は、暁に背徳の悦楽をもたらすのだ。

「…どうした…?暁…」
暁のあえかな表情の変化に気付いた月城が力強い律動を止め、尋ねる。
陶酔の表情のまま、暁が薄紅色の唇を開いた。
「…森じゃない…誰かに…犯されているみたい…。
…だって…この髪…この匂い…違うひとみたい…」
…そう…。もう二年近く経つのに、まだこの姿の月城に抱かれることに慣れていないのだ…。
暁の細い指が月城の長く艶やかな黒髪を梳き上げる。
月城は眉を顰め、強く突き上げる。
暁が息を詰めるように喘いだ。
「…貴方は私を翻弄するのが上手いな…。私が私に嫉妬するとはね…」
暁は艶めかしく笑い、その白く美しい脚を小麦色の引き締まった逞しい男の腰に絡み付けた。
「…もっと…もっとして…すべて…奪って…森と…もっと…ひとつになりたい…」
…二人の境界線などないように…永遠に離れないように…。
性の営みは、暁にとって快楽を得る為というよりは月城との隔たりを失くす行為なのだ。

…国を捨て、家族と離れ…外国に逃げ延びてきた…。
暁にはもう、月城以外には誰もいない…。
月城もまた、暁以外にはいないのだ。

二つの肉体がひとつになる日を夢見て…
暁はいつまでも月城を求め続ける…。

…月城は漸く気づいた。
私が奪っているのではない。
奪われたのは、私だ。

…この月の光に照らされ、妖艶なまでに白く輝く美しいひとは、すべてを奪い尽くそうとする…。
繊細な糸を張り巡らし、獲物を誘い込む美しき蜘蛛のように…。

月城は眼を細めて笑う。
…望むところだ。
この我が魂を捉えて離さない美しき伴侶に、すべてを奪い尽くされるならば…。
それは至上の幸福ではないか…!

月城は、夜に咲く妖しくも美しい白い花のような恋人の最奥に灼熱の楔を打ち付け…その麻薬にも似た極上の身体に自ら溺れてゆくのだった。


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