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隠密の華
第3章 二
あの美しい顔が、至近距離にある。意味不明。理解不能だ。……というか、口付けとはどうしたら良い?口付け、くちづけ、クチヅケ……処女だから分からない。生まれて一度だけ口付けされた記憶があるが、それは幼い頃に父上からされただけ。たらこ唇で酒臭いものだから、良い思い出でないのは確かだ。ぷくっと膨れた、あの、たらこ。思い出せば思い出す程、クセが強い……。
「お待ちください……!」
「どうした?都」
「たらこが急に頭に浮かんで!い、いや、設樂様の唇がたらこというわけではないのですが!父上のたらこが!あ、いや、父上の唇がトラウマで……」
「出来ないか?」
ゾッとしたまま私が設樂様の胸を両手で押すと、設樂様は一瞬むっとした顔で私に質問する。……怒らせてしまっただろうか。しかし、どうしても頭から父上の唇がはなれない。
「仕方ない。またとしよう」
「……すいません」
「久しぶりの再会で気持ちが高ぶった俺も悪い。気を悪くするな」
父上のせいで、久しぶりの再会が台無しになってしまった。しゅんと落ち込みながら私は、私の体をはなす設樂様から視線を落とす。