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隠密の華
第3章 二

……私に何故口付けようとしたのかも、聞けずじまいだ。気持ちが高ぶったとはいえ、私のような女っ毛のない人間に口付けようとするなんて……。まあ、設樂様が私を想っているわけもないが。

「処女では仕方ない。しかし、その方が俺は好みだ。お前が男を誘惑する淫魔だと困る」

「……そういえば、何故私を売ろうとしていたのですか?」

「ああ、その事だが。一つ、都に頼みがある」

「頼みですか……?」

設樂様の周りには、いつも綺麗な女達がいた。容姿端麗で美しい着物を身に纏い、きらびやかに化粧を施し嬉しそうに設樂様へ笑顔を向ける。私はそれを、ただ陰から眺めていた。敵に気付かれない様、地味で目立ってはいけない。隠密とはそういうものだと自分に言い聞かせ、自らを奮い立たせる。全ては国と、この方の為――

「都、明日から水虎国(スイコウコク)へ向かってくれないか?」

「設樂様、それは一体……」

「密命だ。一人で行くんじゃない。桐も一緒に行かせる」

「桐を……?」

私は隠密だ。密命を言い渡されれば、全て従う。

「……分かりました」

真剣に返事をすると、私は設樂様の前で膝ま付いた。
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