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溺れる金魚
第20章 ほどける心
海外への旅行と偽り、大きなトランクを転がして大学病院に入院した。
家族の目を誤魔化すために、病院ではなくバカンスに向かう出で立ちで。
毎年きちんとガン検診をしていたからこそ分かったことだった。
偶然にもその病院の院長が紗良の父の高校時代の悪友で、高校卒業以降も付き合いが細く長く続いていたから、大名行列並みの回診で気付かれてしまった。
悪友の名前が書かれた手術の同意書。
その名の男に直ぐに電話を掛けた。
手術の立ち会いにも来ないのか、何て薄情な男だったのだと怒りの電話を父にして、そこで漸く父は母の病状を知ったらしい。
「電話を切った後の、あの動揺といったら。今まで見たこともない程だったよ」
遠い昔を思い出すように彼は言った。
家族の目を誤魔化すために、病院ではなくバカンスに向かう出で立ちで。
毎年きちんとガン検診をしていたからこそ分かったことだった。
偶然にもその病院の院長が紗良の父の高校時代の悪友で、高校卒業以降も付き合いが細く長く続いていたから、大名行列並みの回診で気付かれてしまった。
悪友の名前が書かれた手術の同意書。
その名の男に直ぐに電話を掛けた。
手術の立ち会いにも来ないのか、何て薄情な男だったのだと怒りの電話を父にして、そこで漸く父は母の病状を知ったらしい。
「電話を切った後の、あの動揺といったら。今まで見たこともない程だったよ」
遠い昔を思い出すように彼は言った。