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溺れる金魚
第5章  熱いキスを
ある日。

珍しく彼が早退してきた。




赤らんだ顔、充血して潤んだ瞳。

壁にもたれていないと立っているのも辛そうだった。



帰ってくるなり「寝るから起こすな」とだけ言ってネクタイを緩めながら寝室へと入っていく。

その後ろ姿に何も発せられずにただじっと目で追う。



佐野は、扉を閉めようとして何か思い出したのだろう。

上半身だけ隙間から出して紗良に言葉掛ける。


「お前に移ったら困るから、今日は実家にでも戻ってろ」
「でも……」



「いいから。分かったな?」

不機嫌そうにただそれだけを言うと無機質にばたんとドアの閉まる音だけを残して彼はドアの向こうへと消えてしまった。
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