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溺れる金魚
第9章  面倒臭い男
いつかは心も体も我が物に……そう思っていたが未だに叶わない。

きっと彼女は自分を一生許してはくれないのだろう。




彼女を愛している。

口に出したなら、彼女はどんな態度を見せるのだろうか。



年を取って臆病になってしまった己に自嘲する。

もう佐野にはどう接して良いのかが、全く分からなかった。




先日熱にうなされながら見た夢。

彼女との妙に生々しい濃厚なキス。



清楚な彼女があんなにいやらしく応えるわけがない。


しかもこの俺に。




そう思ったから、余計に切なかった。

その数日後、彼女が寝ぼけながら自分の手を握り指を絡めてくることがあった。




彼女は多分、夢の中で自分ではない他の男と手を繋いでいたのだ。



それがまさか自分と手を繋いで一晩過ごしたとなったら、きっと気を悪くするのだろう。


だから、こちらの乾いた欲望が潤い始める前に自ら手放した。




今考えてみると、何て勿体無い。




彼女が目覚める直前までとは言わない。

せめて自分の汚い欲望が疼く直前まではその手を離さずにいれば良かった……。





今更の後悔がため息と共に口から漏れ出た。
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