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美肉の狩人
第1章 絶望の中で見つけた獲物 香織
 走り去る車が角を曲がる。見送っていた女の手が下がる。やがて女は、俺のほうを見ることもなく背を向けて歩きはじめた。植え込みの隙間から女の動きが垣間見える。玄関のドアを開けた。そして、ちらりと、こちらを振り返ってから、ゆっくりドアを閉めた。
 さて、俺は考えた。女は開き直ってはいた。でも、どっちだ。今頃、警察に電話してるかもしれない。その可能性だって否定はできない。 
 だが、急ぐ気はなかった。煙草を吸い終わるまで、じっと空を見上げていた。今日もいい天気だ。
 煙草を捨てて、足で踏みけした。吸い殻を拾い上げ、携帯用の灰皿に入れる。社会人としてのマナー。いまの俺にとっては嫌な習慣だ。そう思いながら、道路の向こう側へ渡った。そして植込みの間を玄関に向かって歩いた。
 さて、ドアのカギは開いているか。そっとドアノブに手を触れる。レバーを下げる。手前に引くとドアが開いた。
 昨日振ったサイコロの目は吉とでたようだ。どうやら神様は、いや、悪魔は・・・か。俺を狩人にしたいらしい。それもいいだろう。
 俺は、ドアノブに手をかけたまま、会社に電話を入れた。たぶん、出勤は午後になるような気がした。
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