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**情画**
第8章 別れ
1時間以上かかり着物の部分が出来上がる。
悲しい表情のいずみは翳りがあり、少し蒼白く感じた。
レクイエム…
沙絵の希望通り、沙絵を思い憂いのあるいずみが出来上がりそうだ。
最後にいちばん明るい色である唇に筆を入れる。
震えるその唇に触れてしまいたくなった。
「出来たよ。」
筆を置くと、いずみの唇が開く。
「まずは絵をみて…
それも沙絵の希望だ。」
いずみは静かに立ち上がり、僕の背後に来て絵を覗きこんだ。
ほのかに香るいずみの匂い。早く抱いてしまいたい。しかしそれに堪えた。
喪服、黒の多い世界を描くのは難しいと思う。
でも、絵のワタシはいつものように、紙から抜け出てしまいそうなほど立体的だった。
「先生、ワタシのこの姿で沙絵さんは満足してくれるでしょうか…」
「ああ、十分だと思いますよ。
たぶん、沙絵は作品そのものよりも、描かれる間の貴女の心を占領したかったんだと思うから…」
「あっ…」
気丈に振る舞う沙絵さんの歯痒く切ない思いが窺えた。
友情、親子、主従関係…種類はともかく、それは歪んでいるようで純粋な沙絵さんの愛なのだ。