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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第1章 其の壱
すやすやと寝息を立てて眠る司に、百合子はブランケットを丁寧に掛けると、その丸い頬を愛おしげに撫でた。
…こうしてまた司と一緒にいられるなんて…夢のようだわ…。
百合子は司の清らかな額に、そっとキスを落とす。
…今朝まで司と離れ離れにされて、絶望に涙を流していたのに…。
愛おしい息子の寝顔にもう一度微笑みを送り、その柔らかな髪を優しく撫でる。

大人達の緊迫感に満ちた逃走劇をよそに、司はまるで遊園地に遊びに行くかのように始終はしゃいでいた。
縣商会の強面の社員たちも、司の愛らしさにすっかり虜になり、まるで我が子のように可愛がってくれた。
出航の時には皆、涙を流しながら別れを惜しんでくれたほどだ。

…司は本当に人懐こくて、誰からも愛される子どもだわ…。
百合子は思い出し笑いをする。
船に乗ってからも船員達にたちどころに懐き、先程まで船員達の食堂でおやつを食べさせて貰っていたのだ。
まだ遊ぶと言い張る司を無理やり抱き上げて来たが、
「坊ちゃん、明日また遊ぼうな!」
「一緒に甲板で鬼ごっこしよう。おやつもあげるからな!」
と、すっかり船員達の心を掴んでいたのだ。

…誰に似たのかしら…。
私は引っ込み思案だし、亡くなった旦那様も物静かな方だったのに…。

ふと、百合子の脳裏に、義理の弟…忍の華やかで明るい美貌が浮かんだ。
…と、同時に…先程、縣邸で忍と交わした熱く激しいくちづけが蘇り、百合子の胸は甘苦おしく疼いた。

…私ったら…はしたない…。
白磁のように白い頬を薔薇色に染め、百合子は慌てて立ち上がる。

…外の風に当たりたい…。
司はよく眠っている。
火照った頬を冷やす為に、百合子はそっと船室を出た。




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