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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第1章 其の壱
甲板は仄の明るいランプがいくつか灯っただけで、あとは漆黒の闇が広がっていた。
…潮風が出航した夕刻より冷たく強く感じられ、百合子は思わず自分の身体を両手で抱いた。
ゆっくりと甲板の縁を歩き、手摺を掴む。
目の前に広がるのは、見たことがないほど濃い群青色の大海原だ。
船が進む先には白いレースのような細かな波が起こっている。
激しい波音が聞こえるだけで、他の音は何一つ聞こえない。
夜天には信じられないほどのたくさんの星々が輝いていた。
東京育ちの百合子には初めて見る荘厳な景色だった。

…東京を出てから数時間で、海上の人となっているなんて…。
百合子は目まぐるしく起こった今日の出来事を、まだ実感できないでいた。

実家の継母の策略に乗せられた風間の両親に司を奪われ、悲嘆にくれていたところに義理の弟の忍が駆けつけ、親友の縣暁と力を合わせ、司を取り戻してくれた。
分けても暁は、忍と百合子と司を追っ手から匿い、フランスに出国する為の尽力を尽くしてくれた。

この貨物船は輸入貨物専門の船だが、暁が話をつけてくれフランスまで密航させてくれることになったのだ。
お陰で三人は船内でも広い船室を充てがわれ、挨拶した船長に
「縣男爵様には大変なご恩がございます。
どうぞ皆様は、フランスまでご安心してお過ごし下さい。…なあに、海の上に出てしまえば、誰も風間様に手出しすることは出来ませんよ」
と、力づけるように笑ったのだった。

「ありがとうございます。船長。感謝します」
忍は陽気で華やかな美貌を引き締め、船長と固く握手をした。
義弟の逞しく頼もしい表情に、百合子は一瞬目を奪われた。

…と、同時に…輝かしい未来がある忍をこんなことに巻き込んでしまった申し訳なさに身が竦む思いに囚われる。

…本当に…これで良かったのだろうか…。
百合子は夜の闇より尚暗い海を見つめながら、己れに問いかける。
…将来のある忍さんを…私みたいな年上の…子どもまでいる…しかも義理の姉と…。

忍に愛を告白され、結婚してくれと掻き口説かれ、涙が出るほどに嬉しかった。
…しかし、冷静になると…果たしてそれで忍は幸せになるのだろうかとの疑問がインクの染みのように胸に広がり始めたのだ。

思いに沈む百合子の耳に、硬質な靴音が響いた。
…続く声は…
「…百合子…?そこにいるの?」
百合子ははっと振り向いた。
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