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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第1章 其の壱
「…百合子…」
忍は気を取り直し、百合子の肩に手を置こうとし…躊躇う。
百合子の口から亡き兄の名前が出たことに衝撃を受けたのだ。
「…旦那様は、私が風間のお家に嫁いだ時に仰いました。…私を好きにならなくてもいい…この結婚を君が幸せだと思ってくれたらそれでいいと…。
…どうしてそんなことを…。
私は…旦那様が好きでした…。最初は、義母に言われるがままに決めた結婚でしたが、旦那様はお優しくて、私を大切にして下さいました。なかなか子どもに恵まれなかった時も、旦那様はずっと私を庇って下さった。
だから、司を身籠った時は本当に嬉しかった…。
私は…旦那様をお慕いしていました。その気持ちに嘘偽りはありません。
…けれど…」
忍の貌をふり仰いだ百合子の瞳には水晶のような涙が溢れていた。
「…私は忍さんを密かに愛していました。おそらく、嫁いで来た時から…。
忍さんが私を庇って、手を取って逃げて下さったあの日から…。貴方に恋をしていました…。六つも歳下の…まだ少年だった貴方に…!」
「百合子…!」
「誰にも知られないように…心の奥底にひたすら隠した恋でした…。
けれど、忍さんが大人になられ…恋人が出来たと伺えば心は乱れて、その方に嫉妬したこともありました。
忍さんの恋人が羨ましくてたまらないこともありました。
…もしかしてそのような私の心を全て、旦那様はご存知だったとしたら…。
私は…忍さんと幸せになることが許されるのでしょうか…?旦那様は…司の貌を見ることなく亡くなったというのに…。私は…旦那様をずっと裏切っていたというのに…!」
貌を覆って涙を流す百合子を、忍は背後から強く抱き竦めた。
華奢な身体を砕けそうになるまで抱きしめる。
「百合子!俺を愛しているなら、身も心も俺のものになってくれ。そのことでもし、兄さんに後ろめたく思うなら、俺が引き受ける…!全部…俺が全ての咎を引き受ける!…だから、君は俺を愛しているかどうかだけを答えてくれ…!」
強張る細く白い指を引き離す。
涙に濡れた百合子の瞳がゆっくりと忍を見上げる。
震える薄桃色の唇が開かれる。
「…愛しています…!例え旦那様を裏切ることになっても…貴方を愛して…」
その後の言葉は形にならず、忍の熱い唇に奪われる。
熱く燃えるようなくちづけを幾度も交わしながら、二人は傍らの寝台に崩れ落ちるように倒れ込んで行くのだった。
忍は気を取り直し、百合子の肩に手を置こうとし…躊躇う。
百合子の口から亡き兄の名前が出たことに衝撃を受けたのだ。
「…旦那様は、私が風間のお家に嫁いだ時に仰いました。…私を好きにならなくてもいい…この結婚を君が幸せだと思ってくれたらそれでいいと…。
…どうしてそんなことを…。
私は…旦那様が好きでした…。最初は、義母に言われるがままに決めた結婚でしたが、旦那様はお優しくて、私を大切にして下さいました。なかなか子どもに恵まれなかった時も、旦那様はずっと私を庇って下さった。
だから、司を身籠った時は本当に嬉しかった…。
私は…旦那様をお慕いしていました。その気持ちに嘘偽りはありません。
…けれど…」
忍の貌をふり仰いだ百合子の瞳には水晶のような涙が溢れていた。
「…私は忍さんを密かに愛していました。おそらく、嫁いで来た時から…。
忍さんが私を庇って、手を取って逃げて下さったあの日から…。貴方に恋をしていました…。六つも歳下の…まだ少年だった貴方に…!」
「百合子…!」
「誰にも知られないように…心の奥底にひたすら隠した恋でした…。
けれど、忍さんが大人になられ…恋人が出来たと伺えば心は乱れて、その方に嫉妬したこともありました。
忍さんの恋人が羨ましくてたまらないこともありました。
…もしかしてそのような私の心を全て、旦那様はご存知だったとしたら…。
私は…忍さんと幸せになることが許されるのでしょうか…?旦那様は…司の貌を見ることなく亡くなったというのに…。私は…旦那様をずっと裏切っていたというのに…!」
貌を覆って涙を流す百合子を、忍は背後から強く抱き竦めた。
華奢な身体を砕けそうになるまで抱きしめる。
「百合子!俺を愛しているなら、身も心も俺のものになってくれ。そのことでもし、兄さんに後ろめたく思うなら、俺が引き受ける…!全部…俺が全ての咎を引き受ける!…だから、君は俺を愛しているかどうかだけを答えてくれ…!」
強張る細く白い指を引き離す。
涙に濡れた百合子の瞳がゆっくりと忍を見上げる。
震える薄桃色の唇が開かれる。
「…愛しています…!例え旦那様を裏切ることになっても…貴方を愛して…」
その後の言葉は形にならず、忍の熱い唇に奪われる。
熱く燃えるようなくちづけを幾度も交わしながら、二人は傍らの寝台に崩れ落ちるように倒れ込んで行くのだった。