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愛のシンフォニー
第6章 ミキティ
ふたりはじゃれ合いながら店に向かって歩いているが、さっきから何か変だ。
ずっと誰かに尾けられている気がする。ずっと見られている。しかもその視線には悪意を感じる。

徳造の脳裏に一瞬貴美子の顔が浮かんだ。
カネで買われた相手だけど貴美子は徳造のことが本気で好きだと言っていた。
徳造が他の女のコとデートしているのを見つけて尾けてきて憎悪の視線を向けているのか?
いや、貴美子だけでなく他に徳造を買った女の憎悪の視線なのかも知れない。

しかし、それは徳造を買った女の視線ではなかった。

黒づくめのスーツとコートに身を包んで、黒い帽子にサングラス姿の人相が悪い男が3人、徳造と美樹を追い越して立ちはだかり行く手を阻んだ。

男たちは常人とは思えないような恐ろしいオーラを放っている。

ヤクザ者?美樹はヤクザ者とつき合っていたことがあって、別れた復讐のために現れたのか?いや、美樹は質の悪いサラ金にカネを借りていて、その取り立てなのか?返せなければ風俗にでも沈めるつもりか?もしかしたら美樹はアイドルとかになろうとしたことがあって、騙されてアダルトビデオに出演する契約をしてしまって逃げ出したので連れ戻しに来たのか?

ほんの一瞬の間に様々な憶測が徳造の脳裏を駆け巡る。そのどれもがこの世の果てとしか言い様のない恐ろしいものであるが、事実はそれらがまだ甘いと思える程に恐ろしいものだった。

特に美樹にしてみれば、目の前に現れた現実よりも徳造の憶測の方がだいぶましな悲劇だった。

男たちは冷たい目で睨んで美樹を取り囲もうとする。

美樹は顔面蒼白となりガタガタと震えている。
徳造は美樹を庇うように立ちはだかって男たちを睨む。

「逃げるんだ」

「ダメ、人間が敵う相手ではないの。とくちゃんこそ逃げて」

「そんなことできるか。美樹は俺が守る」

人間が敵う相手ではないとは、ヤツらは何者なのかが気になったが、今はそんなことにこだわっている場合ではない。徳造は懸命に美樹を守ろうとする。

こんな危機的な情況の中なのに美樹は徳造にキュンキュンときめいていた。
懸命に美樹を守ろうと恐ろしい敵にも怯まずに対峙している徳造が騎士様に思える。
それに、美樹って呼び捨てにしてくれた。
徳造はカッコいい騎士様だ。いっぱい、いっぱい好きになった。

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