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女王のレッスン
第5章 ■努力のタマモノ
多少小雨になってきたとはいえまだみんな傘を差してビルの前を過ぎていく。
どうしたんだろう。今まで見送りは開けたままだったのに。
「稜くん?」
「一度見ると免疫つくのかな。躊躇いなかったね、今度の同行のこと」
一瞬頭を巡らせて、すぐに土曜日のことだと気が付いた。
確かにあれを見てなかったら、決めるのにもっと時間がかかったかもしれない。
「まあ、それもちょっとあるかも。意図しなかったこととはいえありがとう」
「いいえ。じゃあもうひとつ、気にしなくていいこと教えてあげるよ」
「え?」
稜くんが少し腰を屈めて、私の肩に手を置き耳元に唇を寄せた。
「瑛二さんは知ってるよ。俺と結衣子さんが関係を持ってること」
発せられた言葉に驚いて、ばっとその顔を見る。
キス出来そうな程の距離にまた驚いて、一歩後退り。その様子に稜くんはふっと嗤った。
「君、俺たちを見る時の視線がどっかぎこちないんだよね。気にしないでって言っとかなきゃって」
「気にするよ!ていうか知ってるって、えぇ……」
「もっと言うなら3人共知ってる。瑛二さんが知ってることを結衣子さんも知ってる。俺もあのふたりが時々してるのは知ってる」
「何、それ……意味わかんない……」
「普通に考えたら三角関係だろうけど、この通り俺達は大して『普通』って感覚を持ってない」
「わかんないよ……なんでそれでみんな笑ってられるの?そんな関係続けたままで」
「そういうものだからとしか言えない。始めてからもう3年経つんだ」
3年。
彼らの関係が湿度を持った理由に行き着いて、あっさりと言われたその3年という月日を単純に思った。
中学、高校、新卒から3年。私より年上の彼らの流れは私が思うより確かに早いかもしれない。
だけど、それって、あまりにも……
「それだけ。おやすみ、ルカ」
私の返事を待たずに、稜くんはドアの向こうに消える。
取り残され、その前で呆然と立ち尽くして、混乱した頭のまま傘を開きふらりと夜の街に混ざった。
またひとつ迷い込む。瑛二さんが曖昧なら、稜くんは言い逃げだ。乱すだけ乱してそのまんま。だけどもう後戻りなんて今更出来ない。
何でもそうだけど今すぐ理解する必要はないんだ。それは漸くわかってきた。
もしかしたら3人だって、手探りのまま歩いている可能性もある。
だって、それって、あまりにも
未来が、見えない――。