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女王のレッスン
第5章 ■努力のタマモノ
「簡単に言えば、俺に妻を縛らせて気分を高める。その間夫はそれを見て、その2人がセックスするのを鑑賞」
ウイスキーの入ったグラスを揺らしながら、私の横で瑛二さんは語る。
はあ、と漏れ出た声は、相槌でも了解でもなんでもない。ただの息。
カウンターの向こうで稜くんが「いい趣味してる」と呟いた。彼にとってはなんでもいい趣味になってしまいそうだ。
「……高めるって、合意の上でだよね?」
「当然だろ。前にもやったよ」
「私は?」
「一緒に見てればいい。チカと同じだ。そういう状況での同性の目っていうのはお前が考えてる以上に大きいんだよ」
「旦那さんと奥さんがしてるのを、瑛二さんと一緒に」
なるほど、確かにいい趣味だ。
どうやったらそういう思考回路になるのか聞いてみたい。
「面白いね。それは露出が好きな夫婦になるの?」
「元々夫婦同士でスワップしてたらしいけどどんどん過激になってったやつだな。緊縛に手を出したのはここ半年だ」
「へぇ、いくつ?」
「お互い38歳とか。お盛んだね。日本のセックスレスが進むこの時代に」
やれやれと首を振る瑛二さんを横目にグラスに口を付けた。
全部飲み干す。腹も決まった。今日はもうこれで帰ろう。
「土曜ね」
「そう。返事は今すぐじゃなくていいけど」
「いや、行く」
「いい決断力だ。成長目覚ましいな」
「周りに焚き付けてくる人がいっぱいいるから」
色んな人がいる。いちいち止まらない。
「帰る?」
「うん。荷物貰える?」
「待ってて」
スツールから降りて瑛二さんを見た。楽しそうに目を細めてる。
「今度スケジューラでも共有しようか。内容入れて招待するから行けるとこだけ応じてくれればいい」
「わかった。じゃあまた金曜日に」
「ん。気をつけて帰れ」
稜くんがカウンターから出てバッグと傘を差し出した。
お客さんと同じようにドアを開けて見送りに来てくれる。
「わざわざいいのに」
「一応ね。あと雨足も見に。まだ降ってるなあ」
後ろ手にドアを閉め、奥まったそこから稜くんが外を見るのに合わせ私も見た。