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女王のレッスン
第5章 ■努力のタマモノ
蠱惑的な微笑を湛えて、享楽主義者は見透かしたように私を見つめ、私は呼吸を一瞬止める。
「そうだなぁ……敢えて言うなら『所詮プレイはプレイ』って実感したかな。楽しいけどそこに没頭は出来ない」
「遊び人みたいなこと言いますね」
「元々の本質は遊び人なんだ。浮気も出来ちゃうからしないようにしてるだけ」
「じゃあなんで結婚したんですか?」
「私は彼が好きだし愛してるの。彼しかいない」
つい今し方まで、夫以外を受け入れていたとは思えない程の清廉な告白に、戸惑いを隠せなかった。
「最初に説明した内容には一切嘘はない。でも内緒にしてたアソビ心は溢れる時がある。だから彼の雄の本能を信じて提案したの。同罪にしようと思ってね。こうして同意の上なら堂々と出来る」
次々と湧き上がる私の問いにアヤさんは淡々と答えて、最後にふう、と息を吐いた。
どこまでも自分本位なはずなのにそれを隠すこともせず、彼女も彼女なりの理論の上で愛と信頼を抱いている。
「ルカちゃんは何かそういう研究でもしてるの?心理学系?」
「いえ、そうじゃなくて、最近性にまつわる色々なことを考えてるというか」
「ああ、それで。性的なことを真剣に考えることをスルーしていく人は多いけど大事だよね。心を生かす、心のままに生きる。そこに悩む人も多いし」
「それですそれ。この頃触れる機会が多くて、だから、つい色々。享楽主義者って言ってたけど、アヤさんもコウさんと同じくらい実は真面目なんじゃないですか?」
悪戯っぽく聞いてみるときょと、と目を丸くさせ、「どうかなぁ」なんて曖昧な返事。
「でもこの試みは初めてだったけど、私今、コウくんとセックスしたくて堪らない。お互いにこれが良かった、これはちょっとって言いながら衝動のまま没頭したい」
照れくさそうに言う一方で、彼女の瞳にはやっぱり凶暴な雌がいた。
もし彼が今すぐ出来るなら、彼女はきっとその衝動に身を委ねていただろう。人目も憚らず。
今日のカイさんがそのままナミさんを抱いたのも多分そう。結衣子さんを縛った後の瑛二さんも。衝動だ。
思考を止めるなと瑛二さんが言った意味を漸く理解する。
考え続けないとわからないのだ。その衝動がどれだけ強い引力を持っているのかが。
努力や思考の末、それでも抗えない、心が衝き動かされる瞬間を、彼らは知っている。