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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク
考えに考え抜いた末、会社へ出した結論は、使ってないリフレッシュ休暇や有給を合わせたひと月半ほどの休暇申請だった。
調整にはそれなりに時間を掛けることになったし、上司もいい顔はしなかったけどなんとか計らって貰えた。
驚いた真緒には努めて軽い調子でちょっと休むだけだと伝えた。これもひとつの仕事への向き合い方だと思ったから。
心配され、励まされ、それでも『待ってるから』と言われたのは少なからず嬉しかった。
引き継ぎ期間に入って2日目、水曜日の午前、社内チャットの受信を知らせるポップアップがPCモニタの端に表示されて、マニュアル修正の手を止める。
いつの間にか履歴の下の方に埋もれていた送り主。戸田柊平。心臓が跳ねて、そろそろとマウスを動かしクリックした。
『ずっと返事できなくてごめん。休暇のこと聞いた。軽くランチでもどう?』
あの夏の日からふた月もの時が経とうとしていた。
会社から少し離れたカフェの隅で彼を待つ。
付き合っている頃時々ふたりで利用していたサンドイッチが美味しいそのお店は、昼時を少し外れた穴の時間で難なく席を確保出来た。
食べたいものは既に決まっていたけど、写真付きのメニューを眺めながらスマホをちらりと見る。
「ごめん、お待たせ」
聞き慣れてたはずの声が新鮮に感じるということは、それなりに薄れてきた証拠なのだろう。
向かいに座るその様を懐かしいとすら思った。スーツがジャケットまで羽織る季節になったのもあるかもしれない。
「そんなでもないよ。お疲れ。いつもの?」
「うん、海老の」
「私サーモン」
「オーケー」
注文を済ませて改めて向かい合う。くしゃっとした天パな髪、犬みたいな人懐っこさ。相変わらずだけど、顔つきが前よりもなんだかキリリと引き締まってる。
共にいながら私がまともに見てこなかったのか、それとも離れてからの変化なのか。
「久し振りだね、遥香ちゃん」