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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク
先に言って貰えて、ほっとしてしまった自分が少しだけ嫌だった。
「久し振りだね、柊平」
「急に長期休暇なんて聞いたからびっくりしたんだ。何か、あったのかって」
そう言って彼は、心底心配そうな表情を私に向ける。
ああ、そうだった。思い出した。
こういう自分のことを放ったらかしてでも、人のことを気遣えるこの優しさに
どこまでも親身になろうと手を差し伸べようとするこの気概に、私は好意を寄せたんだった。
嬉しいなんて、思う資格はないかもしれない。だけどやっぱり嬉しかった。
「……一度、仕事への向き合い方を考えてみたくなったんだ」
「向き合い方?」
「うん。最近色んな人と接してるせいか、ちょっと思う所あって」
「それってこないだの会議室でのことも関係してる?」
「え?なんで、あんな一瞬」
「確かに一瞬だったけど、泣きそうな顔してたから」
ああ、もう。
本当に、お人好しが過ぎる。
気を緩めたらたちまち泣いてしまいそうで歯を喰い縛った。
「関係ないって言ったら嘘になるけど、それだけじゃない」
「そうなの?それじゃあ……」
「私まだ、緊縛続けてるんだ」
柊平の顔が僅かに固くなったのがわかる。
あの時付けた傷が、時間の経過で癒えていたら、なんて虫のいいことは思わない。
蒸し返すかもしれないけど、それならそれでせめて、責めて。
「……それで沢山の人に出会ってね、私の中にあった『普通』がどんどん崩れてったの。仕事も恋愛も、ちゃんと考えてしてなかった」
考えてしてなかったから、ちょっとしたことで仕事のあり方がわからなくなって、
本気で彼を抱こうとする寸前まで彼を愛してるかどうかがわからなかった。
「だから一度、離れてみようって思ったんだ」
それは仕事のことも、恋愛のことも、似たような心情だった。でも仕事はまだよかった。成果が全部目に見えてくる。
だけど彼への気持ちが変化した明確な境界は、今もわからないまま。
つまり私がそれだけ、なんとなくでしか彼と付き合ってこなかったということだ。