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毒蜜喰らわば
第7章 心ここにあらず
・・いったいあれは・・なんだったんだろうか・・
ベッドの中で天井を見つめながら、ほんの2時間前の出来事を
頭の中に呼び戻した。
夜風に吹かれる中、茂の肩に持たれてうっとりとしている私・・
それだけのことだった。
それ以上の事はしなかった。
体を触られたりキスをしたり、という愛の欲は
お互い持っていなかったと思う、その時は。
ただ体を寄り添えて、いるはずのない蛍を眺めていたかったのだ。
別れ際、地下鉄のホームで茂は、絞り出すような声でまた逢いたい、と言った。
黙って頷く私の目じりには、なぜだか涙が溜まった。
泣くほどのことか?
今になって思えばそう笑えるが、あの時は茂の言葉が死ぬほど嬉しい、と
心を震わせたのだ。
これって、ただの浮気だろ?
マンネリ化している恋人へのあてつけみたいなもんだろ?
冷静な今の自分は、はっきりとそう思える。
でも・・さっきの自分は自分じゃない気がしてならない。
自分の意志だけではない、なにかに引きづられるような・・
「いい加減言い訳はやめなよ!」
暗い部屋の、天井にむかって一人声を張る。
単なる浮気だ。私の中に浮ついた心があるせいだ。
雅治には悪いと思うけど、一応独身の身なんだ。
心が動くくらい許されるよ・・
胸の内の本音が、眠りへの呪文のように聞こえて、
やがて意識が細く長く消えていった。