この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
毒蜜喰らわば
第7章 心ここにあらず
・・いったいあれは・・なんだったんだろうか・・
ベッドの中で天井を見つめながら、ほんの2時間前の出来事を
頭の中に呼び戻した。
夜風に吹かれる中、茂の肩に持たれてうっとりとしている私・・
それだけのことだった。
それ以上の事はしなかった。
体を触られたりキスをしたり、という愛の欲は
お互い持っていなかったと思う、その時は。
ただ体を寄り添えて、いるはずのない蛍を眺めていたかったのだ。
別れ際、地下鉄のホームで茂は、絞り出すような声でまた逢いたい、と言った。
黙って頷く私の目じりには、なぜだか涙が溜まった。
泣くほどのことか?
今になって思えばそう笑えるが、あの時は茂の言葉が死ぬほど嬉しい、と
心を震わせたのだ。
これって、ただの浮気だろ?
マンネリ化している恋人へのあてつけみたいなもんだろ?
冷静な今の自分は、はっきりとそう思える。
でも・・さっきの自分は自分じゃない気がしてならない。
自分の意志だけではない、なにかに引きづられるような・・
「いい加減言い訳はやめなよ!」
暗い部屋の、天井にむかって一人声を張る。
単なる浮気だ。私の中に浮ついた心があるせいだ。
雅治には悪いと思うけど、一応独身の身なんだ。
心が動くくらい許されるよ・・
胸の内の本音が、眠りへの呪文のように聞こえて、
やがて意識が細く長く消えていった。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


